二月九日号の小欄は、一月二十九日付朝日朝刊のコラム「池上彰の新聞ななめ読み」が取り上げた、安倍首相とマスコミ界の会食を引用しながら、大マスコミの劣化について書いた。私の見方に対して、読者でもある全国紙の記者からメールが届いた。自戒の念を込めつつ、その一部を紹介する。

 ――報道に携わる者としてどんなに強烈で辛辣な批判をどれだけ打ち付ける相手であれ、機会があれば会食しますよ(むしろすべきだと思います)。相手の懐に飛び込んで本音の言い分を探らないと。いっしょに笑顔でご飯を食べて話を聞き、そのうえで紙面では厳しく批判し、叩くべきを叩くのが正しい姿だと思います。(中略)

 若いときから先輩記者に「絶対借りを作るな」と言われ続け、現場でどう対応するか腐心したことが何度もあります。たとえば原発立地点にいたときは電力会社が現地の記者会メンバーを集めて頻繁に「情報懇談会」を開いていました。取材に役立つし電力側の本音を引き出す貴重な機会でしたが、酒食を伴い経費は電力会社持ちでした。ぼくは宴席を離れた通路で広報担当の方に相当額を無理やり手渡しました。相手にも迷惑なんです。会計処理が面倒な金ですから。「困ると思うけど、職場のお茶代にするのでも構わないから」と続けるうち、相手もすぐ受け取るようになりました。いまではこうした懇談会の大半は会費制になり、報道側も負担が当たり前になりました(まだ会費に多少の色が付いているかもしれませんけどね)。企業側の経費削減の流れもあるでしょうけど、ぼくらの姿勢が突き動かしたような気もしています。

 それから今回みたいな政治家とのおつきあい。夜に先方の指定するお店に出向いて話を聞くときなど、帰りがけに「ここは俺の店だから」とお金を受け取ってくれないことが多いです。ぼくはあとからその方の事務所に相当分の菓子折りなどを「皆さんで食べて」とお送りします。これはうちの会社が経費で出すわけじゃないですから自腹負担になりますけど、先輩から教わってきた大切な矜持です。

 ご指摘、ありがたく拝聴し、枕に使わせていただいた。

 最近、道新で言えば「動静」、毎日なら「首相日々」に目を通すようになった。恥ずかしながら、遅まきながら、池上さんの件(くだん)のコラムで、この短信が実は立派な記事だと知らされたから。

 十八日付読売の「安倍首相の一日」に「11時20分、文芸評論家の小川栄太郎氏」とあった。どこかで目にした名前だな、と思ったが、読み飛ばした。朝日「首相動静」や日経「首相官邸」にも同じ名前があった。

 思い出したのは、しばらく経ってからだった。昨年十一月十五日付の読売に、「私達は、違法な報道を見逃しません」の大見出しで掲載された意見広告の呼び掛け人の一人として、すぎやまこういち(作曲家)、渡部昇一(上智大学名誉教授)、ケント・ギルバート(カリフォルニア州弁護士・タレント)とともに、この名があった。極右のジャーナリスト・櫻井よしこ氏が音頭を取る「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の代表発起人の一人だそうだ。

 

(工藤 稔)

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