この国は、かなりの度合いで、私のような戦後の民主主義教育の恩恵を受けたと自覚する者にとって、その対極の方向に“行っちゃってる”のだと、改めて知らされた。そのスピード感は、民主党の政権を経て、安倍晋三という極右の政治家が再び政権の座に就いてから、猛烈に速くなった。

今年二月、名古屋市の市立中学校が「総合的な学習の時間」の一環として開催した、文部科学省の前事務次官・前川喜平さんの講演会をめぐり、文科省が名古屋市教育委員会に対して、前川さんを講師として呼んだ経緯や講演の内容を問い合わせ、録音データの提供まで求めていたと報道されている。

最初に報道したのは、十五日午後七時のNHKニュースだと思う。そのスクープによると、文科省教育課程課から名古屋市教委に送られたメールには、前川さんが「天下り問題の責任をとって事務次官を辞職した」「在任中、出会い系バーの店を利用していた人物」と指摘し、その上で「道徳教育がおこなわれる学校の場に、どのような判断で(講演を)依頼されたのか」などと質問、さらに交通費や謝礼の有無、その金額なども問うている。メールの言葉遣いは「具体的かつ詳細にご教示ください」などと慇懃を装っているが、二度にわたる、約三十項目の質問は、国が前川さんの講演会は不適切だと断じ、教育現場に対して圧力をかけている、と受け止めるのが自然だ。教育の国家統制を禁じた教育基本法に明らかに反すると言っていい。

この名古屋での講演の二週間後、旭川市で行われた前川さんの講演を聞いた。
旭川に公立夜間中学をつくる会(中島啓幸代表)が主催し、会場の市民文化会館小ホールは約三百人の聴衆で埋まった。自らの不登校の経験を交え、「いじめのない学校~夜間中学と日本の教育の未来~」と題して、正しい日本語で分かりやすく語った講演の概略は、小紙二月二十日号を参照されたい。

印象的だったのは、前川さんが「もし、私が自由に憲法を変えられれば」と前置きして、第二十六条「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」に、第二項として「国は、すべての人に、無償の普通教育の機会を保障する義務を負う」を付け加えたいと話したこと。「国民」に限らず、「すべての人」に、「無償の普通教育」を受けさせる義務を国に課すという提案だ。最近はやりの「都民ファースト」「アメリカファースト」に通じる民族主義、国粋主義と一線を画す、言葉で表すと「インターナショナル」「コスモポリタン」、あるいは「寛容」「ヒューマニズム」…。

前川さんは、長野県須坂市での講演会で、渦中の佐川・前国税庁長官を念頭に、「役人は辞めれば、何でも言える」という趣旨の発言をしたと伝えられる。文科省が前川さんの口を封じようと躍起になるのは、そうした事態を恐れる政権への、まさに「忖度」なのだろう。いささか長い枕になった。ご容赦を。

開会中の市議会予算等審査特別委員会で、市役所を定年退職した職員の「再任用」について、金谷美奈子(無所属)、上村ゆうじ(自民党・市民会議)、安田佳正(同)の三議員が質問した。

市職員の定年は六十歳。退職後、再任用を希望すると、退職時の役職に応じて、例えば次長・課長は係長に、部長は課長補佐の職位に就き、フルタイムで働くことができる。その給料は、係長が月額二十五万四千八百円、課長補佐が同二十七万四千二百円。課長補佐以下の一般職は二十一万四千八百円。これに期末勤勉手当(ボーナス)が年間二・三カ月分と通勤手当、時間外手当が支給される。年額で計算すると、係長で三百七十万円、課長補佐で四百万円ほど。直近の二〇一六年度に再任用された職員は百五十二人。その人件費は五億千九百万円。平均で三百四十万円になる。

(工藤 稔)

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