以下、二月十九日のメールマガジン日経クロステックの記事――

 ――途方もない数字が打ち出された。
 アラブ首長国連邦(UAE)で開かれた国連気候変動枠組条約第二十八回締約国会議(CОP28、二〇二三年十一月三十~十二月十三日)に合わせ、米国政府が二〇五〇年に世界の原子力発電所の設備容量を二〇二〇年と比べて三倍に増やすとの宣言を発表したのだ。
 原発三倍宣言には二十カ国以上が賛同し、原子力大国のフランスをはじめ、英国、韓国、そして日本が名を連ねた。もしこの宣言を実現するとなれば、大まかな計算でおよそ六百基以上もの大型軽水炉を世界で新設することになる。
 世界原子力協会の調べによると、二〇二〇年における世界の原子力発電設備容量は、約四億キロワット(四百ギガワット)だった。三倍となると、単純に八億キロワット(八百ギガワット)増えて、十二億キロワット(千二百ギガワット)を目指すことになる。
 原発一基当たりの電気出力を百三十万キロワット(一・三ギガワット)とすると、三倍の目標を達成するためには、単純計算で六百基以上が必要となる。廃炉となって退役する原発があるのを考慮すれば、目標時期の二〇五〇年までに必要な基数はさらに多くなる。
 原発の建設費用は一基当たり一兆円ともいわれる。本当に原発の設備容量を三倍にするとなれば、大手原子炉メーカーをはじめとする日本企業にとっても商機となるのは間違いない。
 だが、今のところ日本国内の原発が三倍に増える可能性は低い。新設には立地地域の理解を得なければならず、難題であることは想像に難くない。それどころか、国内では既存の原発を再稼働するのがやっとの状況だ。仮にこれから国内で建て替えがあったとしても、数を維持するだけで精いっぱいである。
 原子力大国と呼ばれるフランスや米国でも、一九九〇年代から現在にかけて、原発設備容量はほぼ横ばいで推移している。両国を含む近年の原発建設では、安全対策の強化などに伴い、建設コストの増大が課題となっている。
 そうした背景から、近年では構造がシンプルな「小型モジュール炉(SМR)」が新しい原発の選択肢として浮上している。ただ、SМRは文字通り一基当たりの電気出力が小さい原子炉だ。「原発三倍宣言を実現するとなれば、安全性と経済性を高めた大型軽水炉の建設が不可欠になるだろう」(原子力分野の専門家)。(後略・引用終わり)

 同じく「原発三倍宣言」の報道を受けてのことだろう、二月九日朝日デジタルの専門家へのインタビュー記事が以下。

 ――二〇五〇年までに世界の原発を三倍に増やすという米国主導の宣言には、気候変動対策の観点だけでなく、原発輸出で経済成長に結びつけたいという思惑もある。だが、西側先進国では「失敗」が相次いでいる。初期費用が安いとされる次世代の小型モジュール炉(SМR)で挽回(ばんかい)を図りたい考えだが、果たしてうまくいくのか。鈴木達治郎・長崎大教授(原子力政策)に聞いた。
 ――(前略)SМRも一九八〇年代からあるアイデアで、理論上は確かに初期の設備投資が少なくてすむので、リスクが少ない。それからモジュール型なので、工場で製造できるので安くなるという発想です。基本的には飛行機みたいにしたいわけだ。
 例えば、ボーイング737、747とかは全体では百機というオーダー数になる。ANAとかJALとか、各航空会社が二十機とか三十機をオーダーする。それぐらいのオーダーがないと成り立たない。
 しかも、つくる前に注文前払いで、最初にお金をもらってからつくり始める。原発はそうではない。だから飛行機のビジネスをまねるとするならば、あちこちからかき集めて二十基ぐらいとか発注してもらわないといけない。建設費の半分ぐらいの費用は、最初に払ってもらえるように電力会社にコミットしてもらう必要がある。
 ところが難しいのは、飛行機の場合は、過去の例からも、そんなに値段が上がることはまずない。だから安心して払えるが、原発の場合、建設を始めたら高くなっちゃったみたいな話が出てくる。
 例えば、一キロワット時あたり五セントぐらいの目安でと言って契約しておいて、実は十セントとなりました、というのがあり得る世界。その時、その増加した五セント分を買う側と売る側のどちらが負担するのかと、またけんかになるわけ。(EPR・拡大生産者責任をめぐる)フランスとフィンランドのときみたいに。
 だから本当に原発メーカーや電力会社が原発の経済性に自信があるなら、飛行機と同じように長期契約を結んで、一キロワット時あたり五セントなら五セントで、二十年間の供給契約を結んで、そのもとでやるのが本当のビジネスだ。
 それができないのは、つくる方も買う方も自信がないから。それで国に援助してほしいと言っているわけ。そういうのは一時的にはありえるかもしれないが、持続可能性がない。(後略・引用終わり)

 原発が「核抑止力」につながる、との論がある。

(工藤 稔)

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