「二人で一人前足らずなんだから、ね。ちゃんと自覚してよ」――。このところの家人のセリフである。互いに持病持ちで、病院通いが日常の夫婦だから、二人で一人前未満、という言い方も、その通りだと思う。恥を忍んで、先日の半人前以下の経験を打ち明けよう。誰かの参考になるかも知れない。

 四月二十八日午前十時少し前、パソコンを開くと、前日の画面がそのまま出て来た。会社で仕事中、突然現れてカーソルが動かなくなったのだ。時間がなかったので、そのままパソコンを閉じ、自宅に持ち帰ったのだった。

 画面には「連絡先」が載っている。「マイクロソフト・ジャパン」とかなんとか。電話をかけると、片言の日本語の男性らしき人が出た。「マイク・ミラ」だと名乗り、「あなたのパソコンはウイルスに感染している。あなた、JCBとかVISAとか、なにかカード使ってますか?」と質問された。「時々、使っています」と答えると、「お金、とられますよ」と言う。「どうすれば良いの?」と質問すると、「パソコンをきれいにしますから」と文字の入力を指示された。ここでちょっと疑問を感じた私は、「お金がかかるの?」と問うと、「にまんえんでーす」との答え。「そんな金額なら、詐欺ではなかろう」と甘く見て、指示された文字を入力した。これがいけなかった。

 パソコンの画面に、男が打ち込む文字が現れるようになった。「しゅうり2万円」、そして、その後もウイルスが入り込む可能性が高いから、維持管理費として半年で三万円、一年で五万円プラスだという。「ちかくにコンビニはありますか?」と男。「セコマがあるよ」と僕。「近いですか? ナンプンくらいですか?」、「二、三分」、「では、グーグルプレイカードを五万円買って来てください。店の人に何に使うの? と聞かれたら、怪しまれないように、工事の仕事のために使うと答えてください。電話は切らないで、そのままにしてくださーい。もし切れたら、こちらから掛けますから、あなたから掛けないでくださーい」と矢つぎ早に指示する。なんだかとてもあわただしい感じ。思うに、この仕事に慣れていない、新人の詐欺師だったのかも知れない。

 「どこに行くの?」とコンビニに向かおうとする私に、洗濯をしていた家人が声を掛けた。「ん? ちょっと」。コンビニの顔見知りのお姉さんに、「グーグルプレイカード五万円ください」と頼むと、「何に使うの?」と聞く。「工事の仕事の…」と答える僕に、「それって、おかしい。詐欺だよ、絶対。警察に電話していい?」と、もう電話機を握っている。間もなく、近くの交番のお巡りさん二人がやって来た。この手の“事件”は珍しくないらしく、質問するお巡りさんも、答えるお姉さんも、慣れたものだ。「またよー」って雰囲気。

 で、お巡りさんは僕の車に同乗して、自宅に“臨場”したのだった。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。