馬が好きで競馬を見始めた私にとって、言葉は悪いけれど騎手は添え物のような存在だった。だから、一人の騎手をデビューから追い続け、熱烈に応援するようになるとは、自分でも信じられない。人生は不思議だ。

 旭川出身のJRA騎手、丸田恭介。通称「マル」or「マルちゃん」。デビュー二年目の二十二歳だ。昨年は三勝しかできず、同期にも遅れを取って、お世辞にも目立つ存在とは言えなかった。けれど、このまま埋もれてしまう騎手ではない。丸ちゃんにはそう思わせる何かがあった。

 函館、札幌と、北海道シリーズにこの夏約四カ月滞在。その間に十四勝という上々の成績を残す。今年前半で挙げた四勝を足して、十八勝(十月十七日現在)。去年の勝ち鞍の六倍だ。彼のやや頑固な性格や日頃の言動からして、芽が出るまでにはもう少し時間がかかるかな? と思っていたので、正直、驚いた。丸ちゃん自身も、まだピンと来ていないという感じ。しかし、勝負の世界では勝つのが一番のアピールになるから、北海道では騎乗依頼が激増し、昨年と比べものにならないくらい多くのレースに乗り、人脈も広がった。収穫の多い遠征となったのは確かなようだ。

 急成長を遂げた北海道シリーズが終わって、現在は茨城県稲敷郡美浦村にあるJRA美浦トレーニングセンターで調教をこなし、週末は競馬という日々だ。今週末からは、GI レースの行われる東京競馬場ではなく、裏開催と呼ばれる福島競馬場が丸ちゃんの主戦場。彼のような若手にとっては、主力騎手不在の裏開催は、自分を大いに売り込むチャンスの場となる。五週に渡って十日間開催される福島競馬での目標はズバリ「十勝」だ。

 勝ち星を重ねるにつれ、人気馬に乗る機会が増えたり、同じレースに複数の騎乗依頼が来て取捨選択に悩んだり…。「最近、胃が痛いんすよね~」と、苦笑いする丸ちゃんだが、福島競馬は彼にとって正念場。「自分ではまだハッキリしたものをつかんだという実感がない」と言いつつも、「今が大事な時」と丸ちゃん自身もしっかり自覚している。

 北海道で乗った波に、このまま乗り続けることができれば、さらなる飛躍が期待できる。だが、福島で低迷すれば、せっかく増えた騎乗依頼が少なくなる可能性大というシビアな世界。ここが踏ん張りどころだ。頑張れ、丸ちゃん!!