小倉競馬開幕週は、不調に終わった。レースの流れに乗れていないように見える。実際に競馬に乗っている騎手の感覚は違うはずなので、丸ちゃんなりの言い分があるとは思うのだが、馬券を買って熱くなっている身としては、ともかくじれったい競馬が続いた。おまけに一番人気に推されたアイソトープ号では、スタート直後に馬が躓いて落馬。怪我がなかったのは幸いだったが、精神的にかなりこたえた様子だった。

 気を取り直して臨んだ二週目に、小倉初勝利を挙げた。やっとエンジンが掛かってきたのか、この週は苦手とする逃げ馬でも、うまくペースを作ってレースを引っ張り、うまく二着に残した。逃げ馬に騎乗した場合は、自分でペースを作らなければならない。馬の性格や能力、メンバー構成や距離、コースの特徴などを考慮した上で、どういうラップの刻み方をしていけばいいのかが、今ひとつ掴み切れていなかったという丸ちゃん。このレースは、本人的にも満足に近い騎乗だったし、収穫も大きかったようだ。

 丸ちゃんに電話取材したのは十八日。約二週間ぶりの会話だ。いつもの淡々とした口調で、私の質問に答える。「昨年との違いですか? 調教で乗る馬の数が全く違いますね。二、三頭しか乗れなかったのに、今年はその倍ですからね」。もちろん実際のレースでの騎乗数も、一年前とは比べものにならないくらいに多い。ウイナーズサークルでは「二年目の活躍はすごかったね」と声をかけられるなど、地元のファンの認知度も高くなってきている。どんどん有名になっていく丸ちゃん。天狗にならずに、素朴なままでいてほしいと、心の片隅でふと思う。

 小倉でのプライベートはもっぱらDVD鑑賞。「引きこもりですよ。DVDを十本くらい観ました。十本って言えば、単純に計算して二十時間ですよ。二十時間ってすごくないですか?」。感動系ばかりを観たというので、題名を聞くと「忘れました!」。多分、彼の性格からして、題名を思い出すのが面倒だったと思われる。雑談も交えて、三十分ほど経過。「そろそろ昼寝させて下さいよ~」と丸ちゃんから催促が来た。朝の早い彼らには、昼寝は必須科目。「ごめん、ごめん」と電話を切った。

 二月二十一日、私は小倉競馬場にいた。そして第五レース、ニシノヴァネッサ号で見事優勝! 東京から駆けつけたオーナーにも「丸田、うまく乗った」と褒められていた。「焦らず、気持ちを強く持って競馬に臨みたい」と電話を切る前に発した丸ちゃんの言葉が蘇ってきた。丸ちゃんの最高の笑顔を目の前にして、遠くまで来た甲斐があったとつくづく思った。さあ、小倉競馬も残り一週! 焦らず強い気持ちで臨めば、きっと結果はついてくるはずだ。

2月21日小倉競馬第5R・ニシノヴァネッサ号で見事優勝!笑顔で馬から降りた丸ちゃん