おかだ紅雪庭(市内五ノ十六)に、一九三六年製造のピアノが“里帰り”した。二〇〇三年十月までこの建物で暮らした、酒蔵「北の誉」のオーナーのもとに嫁いだ大谷美恵子さん(故人)の嫁入り道具の一つだったという。その後、美恵子さんの、ピアノを弾く孫の男性に譲られた。

 建物を「動態保存」という手法を取り入れ、そばと料理の店として運営する旧岡田邸二百年財団の高橋富士子代表理事によると、男性からピアノを紅雪庭に戻したいと申し出があり、十月九日、男性と調律師に付き添われて、かつて置かれていた応接室に運び入れられた。男性は「この場所に戻した方が、おばあちゃんも、ピアノも喜ぶだろうと考えた」と話したという。

 セピア色に変色した「出荷表」もあって、ヤマハの前身・日本楽器が製造し、昭和十一年(一九三六年)十一月十一日に工場から出荷されたと記され、その後の調律の記録も残されている。男性が連れて来た調律師は、「こんなに古いピアノで、これほど程度が良いものはそうそうない。ものすごく大事に扱われて来たのでしょうね」と驚いていたという。

 鍵盤が象牙というピアノは、木目が見える仕上がりになっている。一九三三年に建てられた建物は和洋折衷の様式で、応接室のドアや建具は、ピアノと同じような色調と木目だ。応接室の壁にはピアノが置かれていた跡が残っている。美恵子さんのお嫁入りは昭和十一年。部屋の造作に合わせて、特別仕様で製造されたピアノだと思われる。

 白い漆喰の壁、天井から下がるシャンデリア、昭和モダンの雰囲気があふれる部屋に里帰りし、元の場所に置かれたピアノ。高橋さんは、「みんなに弾いてもらいたくて、ここに帰って来たのだと思います。悲しいことに、私はピアノが弾けません。弾きに来てくれる方、大歓迎です」と話している。

 問い合わせは、おかだ紅雪庭(TEL22―5570)の高橋さんへ。