作家、井上靖(一九〇七―一九九一)の生誕百十周年を記念する企画展「井上靖―愛蔵品展」が井上靖記念館(春光五ノ七)で開催中だ。

 展示の先頭を飾るのは日本画家、東山魁夷(一九〇八―一九九九)の直筆画。井上の短編集『桃李記』(一九七四年、新潮社)の装丁原画で、青色をベースにシンプルな構図で描いた分かれ道が人生の岐路を想起させる。井上靖の長男、井上修一氏から借り受けて展示している。

 展示品の二つ目は、陶芸家、河井寛次郎作の茶碗と灰皿だ。井上は京都帝大を卒業した一九三六年(昭和十一年)に大阪毎日新聞に入社。新米の記者として取材のため河井宅を訪れ、寛次郎の人柄に魅了された。茶碗は、井上が戦争から復員して新聞社に復帰した折に、河井が「普段使いに」と渡したもの。もともと夫婦茶碗だったが、片方だけが残った。茶碗の縁がところどころ金継ぎされていて、井上が長く愛用していた形跡がうかがえる。

 このほか、渡岸寺(滋賀県)の十一面観音像の写真、ガンダーラの仏頭、堂本漆軒作の銘々盆と漆芸画、シルクロードの出土品など、十点の愛蔵美術品を展示。井上靖の長女、浦城いくよ氏の解説文と併せて楽しめる趣向となっている。

 観覧料は一般二百円。七月九日(日)まで。午前九時~午後五時(入館は四時半)。月曜休館(月曜が祝日の場合は翌日休館。六~九月は無休)。問い合わせは同館(TEL51―1188)へ。