春光十一町内会は五月下旬、町内会に入っている百五十世帯に二枚ずつ計三百枚、町内の銭湯「フタバ湯」で利用できる入浴券を配付した。

 会長の太田耕治さん(75)は「コロナ禍で、特にひとり暮らしの高齢者は閉じこもりがちになっています。少しでも裸の付き合いで、町内のコミュニケーションを図れればと思い配付しました」と、その動機を説明する。

 町内では、新型コロナ禍が始まって以降、高齢者宅で火事が起こったり、亡くなった人が出たりした。会計を担当する小部信人さん(67)も「コロナで町内会行事がまったくできなかったため、余裕があった昨年の予算を使って、町内会の人たちに入浴券を配付する費用にする案を役員会に諮りました」と話す。

 同町内会では新年会から始まり、観桜会、焼肉パーティー、花火大会と年四回ほど住民が集まる行事を開催している。しかし、昨年は一度も開かれなかったという。

 「なぜ銭湯だけに」「現金で返却してもらった方が」という声もなかった訳ではないが、小部さんは「町内で事業をしているのは、銭湯と美容室の二軒だけ。特定の事業者を優遇したのではないことや事業の趣旨を皆さん理解して下さった。互いに誘い合わせて、楽しい時間を過ごして欲しいです」と笑顔で語る。

 入浴券が配付されて、ほぼ二カ月。フタバ湯の加地経郎さん(62)は「多くの人が入浴券を持って来てくれました。常連の人も、初めてという人もいました。同じ町内会で、顔は知っているが名前は知らないという人同士、ここで初めて名前と顔が一致したと話し込んでいる光景もありましたよ。皆さんに喜んで利用していただければ、嬉しい。何かのかたちで、お礼をしたいですね。また、この事業が他の町内会でも行われるようになれば、と思っています」と期待を込めて話した。(佐久間和久)