百歳の画家・菱谷良一さんが二日、「芸術文化行政に役立ててほしい」と旭川市の文化芸術基金に十万円を寄付した。

 菱谷さんは十一月初旬、文化会館で「百歳記念作品展」を開催。「これまでお世話になった旭川に恩返しを」と作品を販売した売上金の一部を寄付した。

 菱谷さんは旭川師範学校に在学中の一九四一年、治安維持法違反容疑で特高警察に逮捕された。美術部を指導する教師による、生活や社会の実態を観察し、表現する絵画技法が“危険思想”とみなされて、執行猶予の刑を受けて退学。その後、絵から遠ざかっていたが、会社を定年退職した六十歳ごろから、奥さんの登志子さん(故人)の勧めで再び絵筆を握るようになった。

 以後、心に火が着いたように絵画や木版画を制作。市内はもちろん道内外にスケッチ旅行に出かけたり、七十五歳から九十五歳までの間に海外の約二十カ国を訪れたりして、まち並みや遺跡などをスケッチ。それをもとに油絵や版画を制作した。

 市内の新ロマン派美術協会や版画サークル、スケッチ研究会などに所属し、永山公民館などで二十年間にわたり絵画指導も行ってきた。

 今回の作品展は、米寿や卒寿などを記念する数回にわたる個展の総仕上げ。六日間に千百二十五人もの入場者があった。

 菱谷さんは「人生の半分は、絵を描いてきた。それしか芸がなかったからね。人間万事塞翁が馬。百歳の人生に悔いはない」と笑った。(佐久間和久)