第五十五回小熊秀雄賞の贈呈式が十四日午後、アートホテル旭川で行われた。受賞詩集『雨の合間』の著者・津川エリコさん(72)は、アイルランド・ダブリン市在住。出席の予定だったが、ウクライナ戦争のために飛行機がキャンセルとなり、贈呈式ではオンラインで津川さんの受賞スピーチと朗読が行われた。

 津川さんは釧路市生まれ。w実父の死で十一歳のときに旭川に移り住んだ。旭川東高時代、『小熊秀雄論考』の著者・佐藤喜一(一九一一―九二)に国語を習った。その頃に詩を書き始めたという。道教育大旭川校を卒業し、上京して日本語教師などを経て、四十歳のときにアイルランドに移住。今も小熊の詩を愛読する。

 贈呈式では、津川さんの代理として出席した、市内西神楽に住む弟の津川信之さん(70)に、市民実行委員会の橋爪弘敬会長から正賞の「詩人の椅子」と副賞三十万円が手渡された。

 オンラインで行われた受賞スピーチで津川さんは、子どもの頃の思い出を語りながら、小熊の、当時日本の植民地になっていた朝鮮を題材にした長編叙事詩「長長秋夜(じゃんじゃんちゅうや)」を引用し、次のように述べる。

 ――小熊が「朝鮮よ、泣くな」というとき、詩は既に完成しています。最初に出た言葉の勢いの中に残りの全てが続くのです。

 

 老婆(ロッパ)よ泣くな、処女(チョニョ)よ泣くな …

 ふるい朝鮮のことは この年寄りの汚い耳垢が いつも耳の中でぶつぶつ語ってくれるぢゃ

 

 一体日本の詩人の誰が老婆の「汚い耳垢」のことを詩に歌ったでしょう。小熊の詩は人間から離れたことがないように思います。…ウクライナ戦争のニュースを見た時、突然、小熊のこの詩が「ウクライナよ泣くな、老婆よ泣くな、子どもよ泣くな」となって耳に蘇りました。

 時差八時間のアイルランドから送られてくる、津川さんの約十五分のスピーチと詩の朗読に約五十人が集まった会場は静まり返った。

 記念講演では、小樽でジーンズショップを経営する平山秀朋さん(53)が、HBCに勤めていた父親の遺品の中から見つかった、小熊の妻・つね子の肉声テープにまつわるエピソードを切り口に、小熊秀雄とつね子の愛について話した。(工藤稔)