小学校教員を退職後
83歳から詠み始める

 

 九十五歳の東幸盛さんが今月初旬、歌集『木洩陽』をふらんす堂(東京)から自費出版し、十六日、市中央図書館に寄贈した。

 歌集は箱入りの上・下二冊本。上巻は二百八十四㌻、下巻は二百㌻に、全四百五十二首。箱と表紙は同じクロスで、見返しは金銀の箔をあしらっている装丁の美しい本。同館のほか、末広・永山・東光・神楽の四図書館で閲覧と貸出を行っている。

 東さんは一九二七年、中川郡常盤村咲来(現・音威子府村)生まれ。北海道学芸大学旭川分校(現・道教育大学旭川校)卒。小学校教員として、市内の近文小、青雲小、旭川第一小、新町小に勤務。短歌は大学時代の同級生に勧められ八十三歳から始める。北海道アララギ、旭川アララギ短歌会会員。

 東さんと一緒に娘の規絵さん(59)と視織さん(58)も図書館を訪れた。規絵さんは「七年前に母が亡くなり、寂しい日が続く中で、何か目標を持って生きていかなければならないという気持ちの中で、考えついたのが、父の短歌を一冊にまとめることでした」と語った。ネットで探していた中で、偶然ふらんす堂が手がけた書箱が目に留まり、制作を依頼したという。二人の娘の強い思いを父親が受け止め、この歌集は出来上がった。

 

 親戚やごく親しい知人に読んでもらうために作った本だったが、東さんの教え子の勧めもあり、「一人でも多くの方々に読んでいただければ嬉しい」と思い、図書館に寄贈することにしたという。

 

自宅の庭に咲く草花や
北方野草園の自然を詠む

 

 上巻には二〇一〇年から一五年まで、下巻には一六年から二一年までを収録している。上巻は緑色の、下巻は赤色の枠を一㌻ごとに付け、その中に一首収められている。そして上巻には「邯鄲(カンタン)」、下巻には「啄木鳥(キツツキ)」の型押しがある。口絵は、東さん自身による短冊の「てのひらにほのと灯りてあたたかき思いを置きて蛍はとびぬ」の歌。この歌は一三年の第四十九回全旭川短歌大会で一位の旭川市長賞を受賞した。

 東さんは若い時から庭いじりが好きで、今でも自宅の庭で草花を育てている。また昔、病気を患い、毎日のように北方野草園に通い健康を回復したことから、東さんの歌は自宅の庭に咲く草花や、歌集の中で数多く使われている「杜(もり、北方野草園を示す)」の自然を詠んだものがほとんどだ。

 東さんが四百五十二首から選んだ五首は―。
 「邯鄲は秋の終わりの日溜りの野菊に寄りてよよと鳴き交ふ」
 「水際の山紫陽花は雨後の午後の木洩陽うけて光りぬ」
 「リラ冷えの雨にもめげず白き花大山蓮華は凛と咲きたり」
 「湯の宿は石原にあり海鳴りに江差追分紛れてきこゆ」
 「四十雀庭の繁みに子育てし牡丹の咲く朝巣立ちてゆきぬ」

 姉妹が選んだ一首は、「幸あれと願ひて雛を並べたる母の思ひを知る時ありや」。規絵さんは「父の歌は家族を題材にしたものはほとんどありませんが、珍しく母の姿を詠んだ、この一首は両親が深い愛情を注いで育ててくれた、子どもの頃から今までの出来事を思い起こさせてくれるもので、目にするたびに温かい気持ちにさせてくれます」と話す。

 東さんは「若い頃から万葉集を読んできましたが、これからも万葉集の学習に励んでいきたい。また自然を見る眼をもっと深めていきたい」とゆっくりとした口調で語った。現在も一日に二、三首を詠み、新聞に投稿、掲載されている。(佐久間和久)