市内在住の画家 楓(かえで)久雄さん 

手元には北海タイムス連載の挿絵582枚も

挿絵原画  三浦綾子作品に多くの挿絵を描いた画家の楓久雄さん(81)が九日、その原画などを三浦綾子記念文学館に寄贈した。先月二十日から今月十日まで同館で行われた自身の原画展を機に寄贈を決めた。

 贈られた作品は、月刊誌の連載小説「青い棘」をはじめ「あのポプラの上が空」「雪のアルバム」などの小説に使われた挿絵や表紙の原画百九十四枚のほか、スケッチや綾子さんとの書簡など計二百十点。

 三浦光世館長から感謝状を贈られた楓さんは「月一回の連載でも、小説の原稿が私の手元に届いてから締切日まで、一週間ほどしかない場合がほとんど。デザインなど他の仕事とも重なってとても忙しかったものです。でも『嫌だ』と思ったことは一度もなくて、楽しみながらやっていました。ストーリーにぴったりの挿絵が描き上がったときなどは大変に手応えを感じ、やりがいのある仕事でした」と制作当時を振り返っていた。

 楓さんのアトリエには、まだ多くの原画が保管されている。中でも目を引くのが、北海タイムスに連載していた読み物「旭川今昔ばなし」(筆者・木野工、一九八二年三月~八三年七月)に寄せた五百八十二枚の原画だ。

 「旭川今昔ばなし」の中では、昭和初期から戦後までの旭川を舞台に、まちの風景や風俗、世相、人物などが語られている。挿絵はストーリーに則して、当時の師団通りや歓楽街の様子、街を行き交う人々、また遊郭で働く女性の姿などを描いている。当時は常磐公園前にあった花月会館や、二ノ五の老舗居酒屋「独酌三四郎」の外観と店内を描いた挿絵もある。

 毎日の連載だったため、挿絵を描く労力も大変なものだった。現存しない建物が物語のキーとして出てくれば、その写真資料を探して知人や施設を訪ねた。現存する建物ならスケッチに出掛けた。「当時は印刷・デザインに従事していて、他の仕事もたくさんありましたから、三話の挿絵を二日で描いて、一日身体を空けるなどしていました」。

 これらの挿絵を今後どうしたら良いか、楓さんは想いを巡らせている。挿絵は小説があって初めて成り立つもの。しかし、北海タイムスがない今、三浦文学館のような「拠り所」が、これらの挿絵には見当たらない。「子や孫に引き継いでもらっても、ダンボールの中で忘れられてしまっては寂しいしね」。周囲からは、図書館に資料として寄贈してはどうかというアイデアもあったと言うが、楓さんは「いっぺんに手元からなくなってしまうのも寂しいし、まだしばらくはアトリエに置いておくことにしますよ」と話している。