旭川を拠点にイラストレーターとして活躍する三井ヤスシさん(37)が九月二十八日、薬物依存症回復施設「山梨ダルク」の入所者とソフトボールを通じての交流を描いたノンフィクション「福音ソフトボール―山梨ダルクの回復期―」を出版した。

 ダルク(DARC)は、覚せい剤や向精神薬、脱法ハーブなどの薬物依存症のリハビリ施設で、全国に約六十カ所ある。自身も薬物依存症だった近藤恒夫さんが一九八五年(昭和六十年)、東京に設立したのがはじまり。医療従事者ではなく、薬物依存から回復した元患者がスタッフを務めるのが特徴だ。民間機関で、行政や司法、キリスト教会などと連携を取りながら運営している。

 三井さんは出身地の山梨県に住んでいた時、新聞で山梨ダルクと山梨県警察本部のソフトボールの試合を新聞で知った。「取り締まられる薬物依存症者と、取り締まる警察という相反する人たちがソフトボールするなんて…、と驚きました」。旭川に移り住んでから約二年、山梨ダルクを度々訪れて取材を重ねてきた。

 同著ではソフトボールの試合の爽やかな情景を交えながら、薬物依存症の人たちが薬物に手を出した背景や、依存症者を「犯罪者」と見なして孤立させている現状、ただ刑務所を行ったり来たりさせるのは社会の安全性や経済的に非合理ではないかと批判する。そして、聖書の聖句を引用しながらダルクの必要性を説き、回復への希望を持って生きる入所者たちの姿を等身大に描いている。

 「薬物依存は犯罪ではなく、病気です。刑務所に入ったから治るわけではありません」と三井さん。「依存者が薬物に走った原因は、いびつな家庭環境や虐待、学校でのいじめなど、成長する過程で心の拠り所が無かった人がほとんどでした。刑務所から出ても、依存症に苦しみ、同じような境遇の人たちと関係を持ち、薬物をはじめとする犯罪の世界に戻ってしまう。そのためダルクのような心の受け皿が必要なんです」。

 取材の中で、山梨ダルク代表の佐々木広さんが呟いた「人は変われるんです」という言葉に感銘を受けた。「一度失敗した人にとって、変われることが希望。『失敗するな』ではなく、失敗しても救いがあるのが優しい社会ではないかと思います。この本が生きにくさを抱えた人たちの励みになれば」と話す。

 税抜き千三百円。こども冨貴堂(七条買物公園)、喫茶オリーブの木(神居六ノ十六)、ジュンク堂書店(一条買物公園フィール旭川内)、コーチャンフォー旭川店(宮前通西)で取り扱っている。B6判、百二十六㌻。