世論に迎合しなかった
先人たちに圧倒された

 漫画家の日野あかねさん(56)が、詩人・小熊秀雄をもっと旭川市民に知ってもらいたいと、小熊の詩に触発された“イメージ画”を付けた個展「日野あかねが描く小熊秀雄の世界」を十一月十日(木)から、フィール旭川(一ノ八)四階のブックマークカフェで開く。

 日野さんは高校生だった十七歳に漫画家としてデビュー。二十代から三十代前半までの約十年間、東京でアシスタントをしながら、自身も雑誌などに漫画を掲載していた。

 が、「来る仕事は全て受けていた」ため、体調を崩し帰旭。結婚後、漫画から離れたが、四十代に身の周りを題材とした『のほほん亭主、がんになる』(二〇一二年、ぶんか社刊)、『大往生~老犬と過した21年間~』(一四年、双葉社刊)を出し、再び絵筆を握ることになった。

 「東京にいた頃は編集者の言いなりの漫画だけを描いて、自分が描きたい漫画を描いていなかったと、帰旭して思い至りました。あくまでも信念を貫き、世論に迎合しなかったプロレタリア作家の小林多喜二らの先人たちを知るにつけ、その姿勢に圧倒されました。一時期、漫画から離れた後、四十代に描いた、あの二冊が自分が描きたいものに近かったような気がしますが、まだ思索は続いています」と振り返る。

飾らない文体は、
現代の絵がマッチ

 日野さんが圧倒された先人の中に小熊もいた。小熊と言えば、言論弾圧が激しくなる時代に、自由や理想を歌い上げたプロレタリア詩人としてのイメージが強い。その詩に付けた、日野さんの絵が写真下。

 「かけ離れてはいませんか?」という問いに、日野さんは「小熊の詩を読み、『なんて、直接的に語りかけてくる言葉なんだろう』と感じました。口語体で、極めて飾らない文体は現代の絵がマッチすると思いました」と語る。

 絵は、次の詩「馬車の出発の歌」を題材にした。

馬車の出発の歌

仮に暗黒が
永遠に地球をとらえていようとも
権利はいつも
目覚めているだろう、
薔薇は闇の中で
まっくろに見えるだけだ、もし太陽がいっぺんに射したら
薔薇色であったことを証明するだろう
嘆きと苦しみは我々のもので
あの人のものではない
まして喜びや感動がどうして
あの人のものといえるだろう、
私は暗黒を知っているから
その向こうに明るみの
あることも信じている
(中略)
徒(いたず)らに薔薇の傍にあって
沈黙をしているな
行為こそ希望の代名詞だ
君の感情は立派なムコだ
花嫁を迎えるために
馬車を仕度しろ
いますぐ出発しろ
らっぱを突撃的に
鞭を苦しそうに
わだちの歌を高く鳴らせ。

 「この詩の中にある『嘆きと苦しみ』や『喜びや感動』は若い人の特権です。それを希求する、この詩の素晴らしさをもっと知ってもらいたいと思い、このような絵を添えました」と微笑む。

 「こんな素晴らしい詩人が旭川にいたことを、若い人たちが知らないのは勿体ない。もっともっと知ってほしい。小熊は詩だけではなく、童話や漫画原作も書き、絵も描き、手塚治虫や小松左京、筒井康隆などにも影響を与えたことを知りました。小熊の詩を難しく感じる若い人も、現代風の絵を付けてハードルを下げることで、関心を持ってもらえるかも知れませんから」と言葉に力を込めた。

 個展ではポストカードも販売。売り上げは全て小熊秀雄市民実行委員会に寄付するという。期間は十二月五日(月)まで。(佐久間和久)