448人の中から選出
「彫刻の可能性と向き合う」

 第四十三回中原悌二郎賞の贈呈式が十月十四日、大雪クリスタルホール(市内神楽三ノ七)レセプション室で開かれた。

 同賞は、旭川ゆかりの彫刻家・中原悌二郎にちなみ、旭川市が一九七〇年に創設。二〇〇三年からは、二年に一度のビエンナーレ形式で実施されている。今年六月、市内で行われた選考委員五人による選考の結果、作家四百四十八人の発表作品の中から、中谷ミチコさん(42)の作品「デコボコの舟」が選ばれた。

 中谷さんは一九八一年、東京都生まれ。多摩美術大学彫刻学科准教授。二〇〇五年、多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業。一〇年、ドレスデン美術大学(ドイツ)卒業。一四年、ドレスデン造形芸術大学(同)マイスターシューラーストゥディウム修了。現在、三重県を拠点に活動している。

 中谷さんは贈呈式のあいさつで「十七歳の頃、油絵を思ったように描けず悔しく思っていると、高校の先生から『彫刻の方が向いている』と言われました。私は純粋にその言葉を信じ、十年後も彫刻を作っていられる自分でいるためには、今日、何をすべきかと考えて、彫刻を作り続けてきました。これまで世界中のアートや文学、映画など、誰かが作った何かに触れる中で、それらに勇気づけられ、宝物のように集めてきた感覚があります。私の作品も誰かにとっての宝物の一つになれば、自分のやっていることが報われると思っています。これからも、彫刻の可能性と向き合っていきたい」と思いを述べた。

受賞作「デコボコの舟」
逃げる人モチーフに

 贈呈式の後、中谷さんの記念講演が行われ、動画や写真を用いながら、彫刻の制作過程などについて語った。

 中谷さんの立体作品は、レリーフ(平面を浮き立たせるように彫りこんだり、平面上に形を盛り上げて肉づけした彫刻)の凹凸を反転させて、凹みでモチーフを表現する。受賞作は、初めに本体となる舟の原型を石膏で作り、それをベースに型を成形。その内側に粘土で人や鳥、樹木などのモチーフのレリーフを制作し、再度、この型に石膏を流し込むことで、舟の輪郭を消すように凹型のモチーフが現れ、何もない空間として、人や鳥や樹木が存在する、不在と実在が同居した状態をつくり出している。

 中谷さんは受賞作について「ウクライナで戦争が始まり、そのニュースを聞きながら、逃げていく人たちを描いていたドローイングが『デコボコの舟』のベースになっています。舟や鳥、魚は特に大事にしているモチーフで、どれもが私とは違う重力の中で存在していて、それらを彫刻にするという行為はある意味で『死』にもつながるものです。どの時代でも紛争が絶えず、人が人を傷つけている中で、協働と拒絶を繰り返しながら、人間がそこから逃げることで前を向き、手を携えるようなモチーフを作っています。そういうものはあまり注視されないので、もっと見てもらうために彫刻にしたいと思い、さらにそれを地面が持ち上げているようなイメージで作品にしました」と解説した。

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 市は受賞作品を購入して、中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館(春光五ノ七)に収蔵している。

 今回は、受賞作の関連作品「ボート」を代替作品として購入。同館ステーションギャラリー(JR旭川駅構内)で開催中の企画展「まなざしのゆくえ―その先にある“何か”―」で展示している。

 会期は二〇二四年一月八日(月)まで。観覧料無料。開館時間は午前十時半~午後六時半。月曜日、年末年始(十二月三十日~二四年一月四日)休館。

 問い合わせは同館(TEL 46―6277)へ。(東寛樹)