精神科医で作家の野田正彰さんが「旭川の子どもたちの居場所」と題した講演会を三日、市民文化会館会議室で行った。市民約五十人が参加した。旭川の子供たちの未来を考える会の主催。

 野田さんは一九四四年、高知県生まれ。北海道大学医学部卒。長浜赤十字病院精神科部長、神戸市外国語大学教授、ウィーン大学招聘教授、京都女子大学教授、関西琢院大学教授などを歴任。精神医学者として、文化変容や戦争と革命の中で生きる人間を考察してきた。著書に『コンピュータ新人類の研究』(文藝春秋、大宅壮一ノンフィクション賞)、『喪の途上にて』(岩波書店、講談社ノンフィクション賞)など多数。

 野田さんは、二〇二一年三月に市内公園で凍死状態で発見された廣瀬爽彩さん(当時14)の死について触れ、爽彩さんに投与され続けた薬剤を問題視した。また事件が旭川で起こり、当事者や学校、家庭が旭川にあるにもかかわらす、再調査委員会が東京で開催され、結論を出したことにも疑問を呈した。特に爽彩さんを発達障がい児と断定し、特別支援学級に入れ、薬剤を投与し続けた医療と教育のあり方を厳しく批判した。

 「大人たちが爽彩さんの死を食い止めることはできたはずなのに、しなかった。旭川の子どもたちが今、どんな環境に生きているのか、知ることから始めなければならない。子どもが子どもとして楽しく生きられるよう、準備していく必要が大人にはある」と話した。

 野田さんは後半「今日の主題」と前置きし、具体的な例を示し、「大学病院で統合失調症とラベリングされた人が、その後、幸せな人生を送っているか?」と日本の精神医学界を舌鋒鋭く酷評した。

 野田さんは「五十年間、精神医学をやってきた結論は、精神病なるものはない。その人と、その人を取り巻く社会との関係の中に提示されているものが症状としてあるだけ。精神的に苦しむ人はいるが、精神病はない」と断言した。

 「ベルリンでは、精神的困難を抱えている人たちの集まりがあった。そこに来られた人の話を聞いて一緒に考え、助け合っていた。そうすることが、病院に入れるよりヒューマンであることが、市民のコンセンサス(合意)になっていた。いちばん大事なのは権威者がいないということ。一番上に精神科医がいて、一番下に患者がいるタテの関係ではなく、ヨコの関係であるということだ。その中で社会的連帯を取り戻すということが治療です」「精神的に悩むことは誰にでもあること。それを一緒に悩む精神的なサービスを作っていく必要がある。そのことは旭川でもできる。医師と看護師、ソーシャルワーカーも入り、地域に小さな集まりを作っていくことが必要。これが私の提案です」と結んだ。(佐久間和久)