約一カ月の小倉遠征が終わり、美浦トレセンに戻ってきた丸ちゃん。小倉開催では、目標としていた数字には二勝及ばず、四勝どまり。「(以前と)何も変わってないなと思いました。馬を抑えられなくて、他の人の邪魔をしてしまったりしてましたし…。気持ちが焦ってるんじゃないですかね。情けないです」と小倉競馬を振り返る。デビュー時からずっとレースを見守ってきた者から見れば、何も変わってないどころか、すべてにおいて大きく成長している。私が丸ちゃんの応援をしていることを知っている競馬関係者からも「マル、うまくなったな。体がしっかりしてきたし、だいぶ騎手らしくなってきたよ」などと、嬉しいお言葉を頂戴することもしばしば。ただし、本人的には「まだまだ下手くそだ」なのだそうだ。

 「勝っても後味の悪い時もありますし、百回乗って一回くらいしか納得いく騎乗はできないですよ。それでも、馬をうまく導くことができて、勝つというその瞬間があるから、やめられないのかもしれません。まあ、僕がやったというよりは馬が頑張ってくれたんですけどね」。十数頭の馬が走って、一着でゴールするのは、一頭だけ。負ける方が圧倒的に多い勝負の世界。納得のいく騎乗を目指して、丸ちゃんの挑戦は果てしなく続く。

 丸ちゃんへの取材はたいてい、美浦トレセンの調教スタンドで行っている。競馬の世界は朝が早い。冬の時期で調教開始が午前七時。私がスタンドに入るのは、その一、二分前だが、馬の世話をする厩務員さんは、その二時間前には準備のために仕事を始めている。調教が終わるのが午前十一時前後で、その頃には、競馬関係者やマスコミの数も減り、賑わっていたスタンドも閑散としてくる。

 今回の取材も人気の少なくなったスタンドで行ったが、元騎手で今は調教助手の谷中公一さんと、丸ちゃんの一年後輩の伊藤工真騎手がちょうど居合わせる形となった。伊藤騎手との会話では、ちょっぴり先輩っぽい口調になっている。私に対しては一応敬語なので、普段着の会話を聞くのも新鮮だ。

 谷中さんは、日刊スポーツにコラムを書いたり、本を出版したりと実に多才。年は私より一つ上だが、若い騎手とも壁を作らず、気さくにスタンドで話をしている姿をよく目にする。この時も写真を撮ったり、雑談で盛り上がってしまい、取材を危うく忘れるところだったが、こういう時間もまた楽しい。良き先輩からアドバイスをもらい、後輩には刺激を受けて、今後も成長し続けてくれるはず。丸ちゃん、期待しているよ!

左から後輩の伊藤工真騎手、

中央が丸ちゃん、右が谷中公一調教助手