もう五年前のことになる。旭川ゆかりの詩人、小熊秀雄(一九〇一・明治三十四年―一九四〇年・昭和十五年)の名を冠した全国公募の賞が、四十回を節目に無くなってしまいそうな状況になった。その時、「なんとか続けようよ」と声を上げた市民の一人として、今回、第四十四回小熊秀雄賞の贈呈式は、感慨深いものがあった。あくまで個人的な感傷なのだが。
受賞作は、石川県在住の酒井一吉さんの詩集「鬼の舞」。詩などという高尚な世界とは程遠いところで生きているのだが、そんな私にも理解したり、共感したりできる詩集だった。最近の詩は、私のような者にとっては、言葉の実験というか、行間に入り込むことが不可能と思えるモノが多く、正直な話、四、五行も読むと、頭がクラクラして思考不能に陥ってしまう。だが、酒井さんの詩は違った。
その人生の略歴を見ると、酒井さんの詩の根っこが分かるような気もする。「昭和二十二年、石川県羽咋郡志雄町生まれ。高校に進学するのだが、家の事情で中退し、私鉄に就職。その後、私鉄バスの運転手として働いた。五十三歳で退職し、在職中に準備してあった、小さなりんご園を始めた。詩は中学生時代から書き始め、金沢の同人誌『笛』に参加。以来、能登の風土や労働、家族をテーマに詩作を続けている」
今月十四日の贈呈式でお会いした折、「どうして、りんご園を?」とお尋ねすると、こんな答えが返ってきた。
(工藤 稔)
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