本性が出るというか、出したい気分に襲われるのか、大雨や洪水のニュースで、外の様子を見に行って命を落としたり、行方不明になったと報じられるのは、大抵は男性である。ここは、妻や家族に、自分がオスである、群れのリーダーであることを見せ付けなければならぬ、と体が自然に動くのかも知れない。哀しき性(さが)と言える。

 今月二日夜、会合を終えて帰宅すると、家人が「逃げなくて大丈夫かしら」だの、「入っている保険は、水害は対象外じゃなかった?」だの、珍しいことに“すがる”ような表情で言う。外は、朝からの雨が、弱まったとはいえまだ降り続いている。自宅は、石狩川の堤防まで五㍍ほど。日があるうちは二階の居間から川面を望むことができるほど至近だ。

 家人によると、全国ニュースで「旭川で川が氾濫し、避難指示が出た」と報じられたようで、高知の友人から安否確認の電話が入ったという。何十年ぶりに“すがられている”状況の出現に、能力はほとんど廃れてしまってはいるが、オスとしての本性がムクムクと頭をもたげるのを感じながら、「ちょっと川を見てくる」とカッパを羽織った。「危ないから、行かない方がいい」と押しとどめる家人を振り切るようにして外に出た。

 堤防に上ると、傘をさした近所の住人が五人ほど、水かさを増して濁流となって流れる川を眺めている。もちろん、いずれも男である。茶色に濁り、ゴーゴーと音を立てる水は、いつも犬の散歩で歩く緊急用河川敷道路を飲み込み、テニスコートや野球場を閉鎖して行われている工事現場も濁流の下になっている。

(工藤 稔)

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