「あと二カ月で、折り返しだけど、おたくの社長、どうですか?」と水を向けると、「そうだねぇ、丸二年になるんだよねぇ…」と、示し合わせたようにため息まじりの答えが返って来た。話を聞いた複数の市職員の反応である。若さを売り物に西川市長が初当選を果たしてから、十一月で任期の半分、二年が経過する。今春、鳴り物入りで断行された機構改革の効果は、果たして三千人を超える職員たちのモチベーション向上に寄与し、お役所の体質改善を進める効果をもたらしているのだろうか。

今春の機構改革で、それぞれに館長がいた「科学館」と「博物館」が一つになり、「博物科学館」になった。館長は一人、博物館に常駐する。科学館の職員に話を聞いた――

「一緒になる前は、博物館と科学館がそれぞれ独自に企画して進めていた事業が、共同で出来るようになったのが大きい。例えば、博物館が所蔵している、昔の真空管のラジオを科学館のスタッフが修理して、その時代の人々の暮らしについての展示や様々な事業を企画するとか。六月と七月には、市民を対象に神居古潭と浮島湿原で地質と動物・植物についての観察会を開きましたが、その事業は博物館が募集して、私たち科学館の学芸員もスタッフとして参加する、という形でした。館が別なら、出張依頼の文書を出したり、出張旅費はどちらが持つのかなど、繁雑な手続きがありましたが、今は館長がOKと言えば良いわけですから、自由度は格段に上がりました。合併してまだ四カ月です。もっともっと、それぞれの得意分野を活かし、補い合って、博物館と科学館の職員の研究成果を市民に還元できる、さまざまな事業を展開できるんじゃないかと考えています」

話の中に、こんな裏話もあった。「それぞれが持っている備品、例えば、何かの事業を企画して顕微鏡が必要になっても、貸してちょうだい、とは中々言えなかったんです。貸してくれと言われれば貸さないことはないんですが、お互いに頼みたくない、頼まれたくない。典型的な縦割り意識ですが、役所はそういうところなんです。それが、合併したことで可能になった。その恩恵を受けるのは、博物館や科学館を利用する市民ですよね」

博物館と科学館の合併が、それぞれの施設で仕事をする職員のモチベーションを高めた理由の一つに、館長の上に担当課長を配置していないという背景があると思われる。民間企業で言えば、最前線の営業課を束ねる課長の上に、ワンランク上の営業統括課長なんて肩書きの方が鎮座しているスタイルだ。売上げや収益という目に見える数字で結果が表れる商売ならば、統括課長が何と言おうが、現場の責任者の判断が優先されるが、役所の世界は違う。まして、前例主義や事なかれ体質、失敗厳禁の役人社会特有のルールを重んじる担当課長が上司に配置されたら…。

機構改革が功を奏した良き例が、博物科学館の誕生にあると言える。○○部○○課○○係○○担当と、微細な縦割りとなっている組織、机を並べていても、決して隣の職域には口も手も出さない、出せない、触らせないという悪習にサヨナラをするためには、何が必要で、何が不必要か。五月の改革から半年を経過した時点で、その検証、補正をすべきだ。それも急いで。朝令暮改を怖がらずに。

冒頭の「おたくの社長、どうですか?」の話に戻る。ある職員は、西川市長をこう評した。「何に依拠して政策判断をしているのか、さっぱり分からないんだよね」と。「神楽保育所、新・駅前広場が典型だけど、職員が時間をかけて積み上げてきた施策を、いきなり、まるで梯子を外すように転換してしまう。庁内のモチベーションが上がるわけがないよ。あと二カ月で折り返しだけど、いくらド素人だと言っても、そろそろ政治家として、三千人を超える市役所組織のトップとして、このまちをどんな方向に導こうとしているのか、具体的に示してもらわないと。迷惑を被るのは、三十五万人の市民ですよ」――。

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