この方、ただの人の良い、お坊ちゃまだったのね、その場限りのいいふりこきだったのね、と心底落胆した。普天間基地の問題で、米国の大統領に向かって自信たっぷりに語りかけた「トラスト ミー」の言葉の根拠が何もなかったと分かったときにも、かなりの度合いでがっかりさせられたけれど、それでもまだ、正直な理想主義者だから、うそはつきたくないのねと、義理堅い私は、信じようとしたのだった。一度信じたのだから、そう簡単に見限るのは義に反するべ、という心境で。

 ところがである、今回の小沢氏の民主党代表選出馬について、〇三年の旧自由党と民主党との合併の経緯を引き合いにして、「私の一存で小沢氏を民主党に入れた。小沢氏を支持するのが大義だ」と語ったと伝える記事を読んで、ほとほと愛想が尽きた。それはあなたの個人的な大義であって、去年、政権交代を望んだ有権者にとっては、裏切り以外の何物でもないではないの、と。あぁ、商売柄吐いてはいけないセリフだとは重々承知の助ではあるけれど、本気で政治がイヤになりそうだ…。枕は、ここまで。

 お盆の少し前、友人たちと誘い合わせて釣りに出かけた。行き先は、天塩川の支流、下川町を流れる清流サンル川。小欄で何度も書いてきた、サンルダムが計画されている川である。

 前日から、この地域を含む道北一帯ではかなりの量の雨が降っていて、濁りが心配だったが、地元にあって一貫してダム建設反対を訴えている知人に案内していただき、上流の枝沢に入り、半日、渓流の水音に包まれてヤマベ釣りを楽しんだ。釣果ですか? まぁ、もともと数を競うとか、大物を狙うとか、そんな気持ちはさらさらなく、健康な渓流に身を置くだけで満足し、十匹も釣れれば御の字という連中でして。それでも、四人で百匹以上はあったろう。

 案内してくれた地元のベテラン釣り師の知人は、「こんなもんじゃないんだけどなぁ」とすまなそうに言ったが、大雨の後でも、これくらいは楽しめる。豊かな森が雨水を吸収して濾過の作用を果たし、人工構造物が少ない枝沢が縦横に走る、原始の川の姿をとどめているからこそだろう。帰途、四人で「ヤマベが湧く川」と言われるサンルの真骨頂だなぁと、話した。

 昨年の政権交代で、サンルダムの建設は凍結されている状態だが、取り付け道路や橋などの工事は続いていた。凍結前に結ばれた契約は、凍結後も有効ということなのだろう。

 そもそもこのダムは、地元の強い要望を受けて計画されたものではない。建設を進める国交省北海道開発局が一九九八年(平成十年)に天塩川流域の全戸を対象に行ったアンケートでは、「洪水・土砂災害に対する安全性」についての質問に、「安全だと思う」と答えた住民が五五%、「ある程度安全だと思う」が三四%。一方で「危険だと思う」が二%、「ある程度危険だと思う」の八%を合わせても一割。約九割の住民は、サンルダムによる治水など求めてはいない。

 前週の「高速道路の必要性」についての稿でも書いたが、国のお役人組織が地元の首長をはじめとする行政機関や公共事業の恩恵を享受する地元の建設業の団体らに働きかけて期成会をつくらせ、地域のしがらみや地縁血縁を利用して住民を巻き込んで、あたかも地元全体が建設を熱望しているかのような雰囲気を醸成する。反対する者は「唇寒し」、それでも歯向かう者は「村八分」という空気が町を覆う。地方の、善良な、節操のある、奥ゆかしい民たちが、これまで、日本中で、どれほどこの手の役人組織の巧妙で、あからさまな策略に絡め取られ、泣き寝入りしてきたことか。

 サンルダムの建設費は、五百三十億円だという。二十三日から二十四日にかけての大雨で、天塩川の中・下流域では道路が寸断されたり、住宅が水に浸かるなど大きな被害を受けた。二百年に一度の大雨のときに、下流の音威子府村の天塩川の水位が十センチ“も”下がると推計されるサンルダムが完成していれば、どれほどの効果があったのか、開発局に、ぜひ、お聞きしたいものである。

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