一月二十九日夜に放送されたNHKスペシャル「激震! 巨大公共事業」を観た。九州・有明海の諫早湾干拓事業について、民主党政権が「見直し」を決定したことを受けて、地元の農家と漁師に広がる波紋を取り上げた番組だった。

 初期の構想から五十九年、総工費二千五百億円を投じて、すでに完成した巨大公共事業が、政権交代によって、見直されようとしている。干拓地に入植した農家は、見直しによる営農への不安を訴え、一方、でたらめな環境影響調査による予測に反して、海の環境悪化による漁業被害に苦しんできた漁師たちは見直し決定に沸く。

 国も県も自治体も、農地拡大、水の確保、そして災害対策と、その時々に都合よく目的を変えながら事業を推し進めた。少なくない学者や識者と呼ばれる者たちも加担した。地域のコミュニティーは分断され、生業を失ったり、離婚を余儀なくされたり、人生を棒に振ったり、泣きを見たのは、いつものように、その地でしか生きられない農業者や漁師たちだった。結果の責任もまた、それら弱者に押し付けられる。事業を推進した役人も、政治家も、学者も識者も、責任は問われない。そんな番組だった。

 テレビの前で、晩酌の杯を傾けながら、ブツブツ言う自分がいる。付き合っている家人が、またなのね、という顔でちらっと私の顔を見る。

(工藤 稔)

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