どうも感度が鈍いな、と自己嫌悪する場面が子どもの頃からあった。小学校に入学したばかりの時期に、四十度の高熱が一週間も続いて往診した医者が首を傾げた、という話を母親から聞いたことがあるから、その後遺症ではないかと考えたこともある。つまり、人に何かを言われて、その人が目の前から去った後に、ひどく立腹する、なぜ間髪入れずに怒らなかったかと悔いる、そういうことだ。
現在のこの国の状況も、そうなのではないか。安倍晋三首相が「時間が経過すれば、国民の理解が深まる」と予言するように、しばらくして、首相が仕掛けた壮大な罠(わな)の全体像がようやく見えるようになる。その時、私たち国民は腹を立てたり、抗議したりする権利までも奪われている。そんな社会への踊り場に、いま、国民はいるのではないか。鈍い私は、十月一日付の朝日新聞「防衛装備庁 きょう発足」「武器輸出の窓口に」の記事を読んで、遅まきながら察知したのだ。「これって、もしかしたら、やばいんでないべか」。
記事によると、防衛省の外局となる防衛装備庁の人員は約千八百人。自衛隊が使う武器の開発から購入、民間企業による武器輸出の窓口役までを一元的に担い、予算約二兆円を握る。安倍政権は昨年四月、武器の輸出を原則禁じて来た武器輸出三原則を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を作った。一定の基準を満たせば、武器の輸出や国際的な共同開発・生産を解禁した。その実務を担うのが防衛装備庁というわけだ。経済界は、同庁の発足をビジネスの好機と見て歓迎しているそうだ。
岩波書店発行の「世界」十月号に、五十嵐仁・元法政大学教授が「自民党の変貌―ハトとタカの相克はなぜ終焉したか」と題する評論の中で、歴代の自民党政権の流れを俯瞰(ふかん)しながら、安倍政権の突出する「軍事偏重」を指摘している。読むと、「海外で戦争する国」になるために、ひたひたと、着実に既成事実化を推し進め、法律や制度の改変、システムの整備を図ってきた経過がよく分かる。一部を抽出してみよう――
(工藤 稔)
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