しっかり覚えてはいないのだけれど、「冬道は心配だから、JRで来てね」、みたいなキャッチフレーズをJR北海道がコマーシャルとして使っていた時期があった。事故やトラブルが頻発するようになる前、かれこれ二十年ほど昔か、もっとか。とにかくバスや車よりも、JRの方が安全安心で、その自他ともに認める信頼感は、コマーシャルに使われるほど揺るぎないものだったのだ。

 父親が国鉄(現JR)に勤めていた。もの心がつく頃から、一分も遅れることなく安全に汽車を走らせる、ただそれだけのために、大げさに聞こえるだろうが、命をかけているような雰囲気を身にまとう父親を見て育った。だから、鉄路の上を走る汽車や電車は安心だと思い込んでいた。国鉄の血筋を引く私のような者だけではなく、世間の感覚として「冬道は安心なJRで」という謳い文句は、異論なく受け入れられていたのだろう。

 今月十八日から二十一日にかけて、急速に発達する低気圧の接近で、道内は大荒れの天気になった。たまたま私用で十八日早朝から、家人と連れ立って札幌に行く予定があり、前夜から天気予報を気にしていた。家人は「JRがダメだったら、高速バスで行きましょう」と言う。私は「JRが止まったら、バスだって走れないよ」と反論すると、彼女は「運休は、天候だけに限らないじゃない。最近のJRは信用なりませんから」と事も無げに言い放った。

 そう言えば、家人は三週間前、札幌からの帰途、函館本線のトンネル火災でJRが使えず、急きょ高速バスに乗り換えてようやく家にたどり着くという苦い体験をしている。JR=国鉄に対する思い入れを残す私にはない客観性を持つのは当然かも知れない。そして確かに、今回の大荒れの天気でも、JRは猛吹雪が襲来する前に、予報の段階で早々と「運休」を決めるという印象だった。走らせないのが最善の安全対策、無理して走らせて途中で立ち往生でもしたら、またぞろ世間の批判を浴びるぞ、と自己防衛に走る企業体質が垣間見えた。

 前号、十九日号の本紙一面は、JR北海道が三月二十六日からのダイヤ改正で、旭川―新千歳空港間の直通L特急スーパーカムイ十二往復を全て取り止めると伝えた。実は、JR北海道は、格安のSきっぷフォー(四枚つづり)を廃止し、札幌までのSきっぷ(往復)だけにするというプレスリリースと同時に、昨年末の時点で、このダイヤ改正を発表していた。しかし、年末のドタバタした時期ということもあり、報道各社のニュースとしての扱いが小さいか、もしくはなかったのだ。

 遅れたスクープの反響は大きかった。読者から、「旭川市はJRに対して、スーパーカムイの旭川―新千歳間を存続するよう要請するなり、国土交通省に働きかけるなり、市民の立場になった動きを何かしたのか」と問い合わせのメールが届き、同様の電話も数件あった。二日後、北海道新聞が旭川版紙面で、本紙が触れなかった「Sきっぷフォー廃止」「運賃値上げ」を中心に、新千歳空港直通スーパーカムイ全廃も含めて大きく報じた。

 

(工藤 稔)

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