時代劇の悪代官と商人が登場するシーンの説明を聞いている気分だった。一月二十八日夕、NHKの「ニュース シブ5時」は、甘利明経済再生担当相の記者会見を一時間余りにわたって中継した。

 二〇一三年十一月、大臣室で菓子折が入った紙袋をもらった。持ってきた社長らが退室した後、秘書から中にのし袋が入っていると報告を受けた。私は政治資金として「きちんと」処理するよう指示した。

 二〇一四年二月、建設会社の総務担当者が、大臣室を訪問させてもらったお礼と病気の快気祝いとして地元事務所を訪れた。その際、会社の敷地から産業廃棄物が出て困っているという話をされ、その後、菓子折の入った袋と封筒を受け取った。大臣室訪問の謝礼と病気を克服して頑張れという政治活動の応援の趣旨だと受け取り、秘書に対して封筒に入っていた現金を「適正に」処理するよう指示した。

 のし袋と封筒には、それぞれ五十万円が入っていたそうだ。「きちんと」「適正に」処理したと、当り前のように語る姿に、日常的に、普通に、度々、こうした政治献金をいただいているのだなぁと口あんぐり。私たち庶民の金銭感覚からは想像も出来ない世界である。

 そして、この日辞表を提出した二人の秘書が不適切な処理をしたと、まるで自分は被害者であるかのような説明を繰り返した後、甘利大臣は、「秘書への監督不行き届きがあった以上、安倍内閣の重要閣僚としてとどまるのは、政治家としての自分の美学に反する」と芝居もどきの大見栄を切ったのである。

 その日の各紙朝刊に甘利大臣の辞任を示唆するような報道はなく、「しばらくは続投だな」の空気だった。意表を突かれたのか、甘利大臣の大見栄にビビったのか、記者たちは生ぬるい質問に終始した。秘書たちは贈賄、甘利氏本人も、あっせん利得処罰法違反で訴追される可能性があるというのに、である。一人でも「議員辞職の考えはないのか」と甘利氏を追及する記者が出てくることを期待したが、テレビ中継を見る限り、それもなかった。

 そんな記者たちの鈍ーい、緩ーい報道が功を奏したものか、甘利大臣の辞任を受けて報道各社が行った世論調査の結果は、予想に反して、安倍政権の支持率が上昇するというものだった。

 毎日と読売の結果を見ると(カッコ内は前回)――。

 【毎日】①内閣の支持率=支持五一%(四三%)・不支持三〇%(三七%)②甘利氏の説明=不十分六七%・十分二〇%③安倍首相の任命責任=重い四二%・重くない四六%。

 【読売】①内閣の支持率=支持五六%(五四%)・不支持三四%(三六%)②甘利氏の辞任=当然七〇%・必要なかった二三%③安倍首相の対応=適切五七%・不適切二八%。

 調査結果を要約すると、「甘利氏の説明は不十分」で「辞任は当然」だが、「安倍首相の任命責任は重くない」し、「首相の対応は適切」だったと見る人が多かったということだ。そう判断させた理由の一つに、安倍政権の巧妙と言うのか、北海道弁なら「なまらこすい(大変ずる賢い)」マスコミ対策があるだろう。

 

(工藤 稔)

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