少し前のこと。帰宅した私に、テレビでニュースを見ていた家人が唐突に言う。「これって、日常的に使っているのよ。そうでなければ、二十代の若者がとっさに『土人』とか、『シナ人』とか、そんな言葉を口にするわけがないじゃない。職場なのか、別の仲間内なのか、いつも使っているのよ。だから、思わず口について出るんだわ」。

 米軍のヘリパッド(ヘリコプターの着陸帯)建設工事が進む沖縄県東村(ひがしそん)高江の工事現場近くで、建設に反対して抗議活動をする市民に向かって、機動隊員が「土人」「シナ人」と差別的な暴言を吐いたと報じられた。十月十八日にインターネットの動画サイトに投稿され、発覚したという。

 オスプレイも飛来するヘリパッドは、沖縄最大の北部訓練場に建設中だ。住民の粘り強い反対運動もあり、二年半ほど工事が中断されていたが、夏の参院選で自民党の現職、島尻安伊子・沖縄及び北方対策担当大臣が大差で野党統一候補に敗れた翌日、突如として見せしめのように再開された。その訓練場の金網フェンスをつかんで抗議する人たちに向かって、「触るなくそ、どこつかんどるんじゃ、ぼけ、土人が」と暴言を吐く様子が映っている。別の機動隊員が「黙れ、こら、シナ人」と叫ぶ様子を写した動画もサイトに投稿された。

 十月二十日付の沖縄タイムスによると、暴言を吐いた二人の機動隊員は、いずれも大阪府警から派遣された二十代の男性機動隊員。沖縄県警は「土人」と発言した隊員を大阪府警に戻した。また、「シナ人」と発言した隊員は、警備任務から外し、後方支援業務にあてるという。

 驚いたのは、大阪府の松井一郎知事の感覚だ。自身のツイッターに「ネットでの映像を見ましたが、表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様」とねぎらいの投稿をしたという。この方は日本維新の会の代表だそうな。世も末である。

 「辺野古新基地建設」を争点とした選挙で、沖縄県民は、繰り返し「新基地はいらない」と意思を示してきた。二〇一四年一月、新基地が計画される辺野古の地元の名護市長選、同年九月の名護市議選、十一月の沖縄知事選、全国的には安倍・自民党が大勝した十二月の衆院選でも、前述の今夏の参院選も、県民は圧倒的な票差で「米軍基地はいらない」「辺野古に新基地はつくらせない」との決意を示してきた。しかし、その民意を無視して、日本政府は「辺野古しかない」と強弁し、なりふりかまわず工事を強行する。

 そこに、若い機動隊員が「土人」「シナ人」と蔑む根っこが見える。安倍首相はじめ政権幹部が「沖縄に寄り添う」などと口にするのを聞くと、気持ちが悪くなる。吐きそうになる。県と市をコケにする形で、町内会のごとき住民組織に現金を恵んでやると懐柔する下司が、何をほざくか。

 

(工藤 稔)

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