『世界で最初に飢えるのは日本』(鈴木宣弘著・講談社α新書、二〇二二年)――いささかショッキングな書名の本を読んだ。副題は「食の安全保障をどう守るか」。著者は、東京大学大学院農学生命科学研究科教授。一九五八年、三重県志摩市生まれ。東大農学部卒。農林水産省に十五年ほど勤めた後、学界に転じた。主な著書に『農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(二〇二一年・平凡社新書)、『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(二〇一三・文春新書)などがある。

 タイミングよく、二月二十六日付しんぶん「赤旗」日曜版が鈴木教授のインタビュー記事を掲載した。見出しに「農業守ってこそ真の『国防』」「ウクライナ侵略一年 食料供給に打撃」とある。インタビューで鈴木教授は次のように説く。抜粋して引用しよう。

 ――日本のウクライナからの輸入は限定的です。しかしウクライナが輸出できなくなると、日本が食料を輸入してきたほかの諸国に需要が集中し、食料の争奪戦が始まってしまいました。特に人口が十四億人の中国が高額で大量に買い付け、穀物も肉も魚も牧草も日本が買い負ける状況が強まっています。
 そのもとで小麦の生産が世界二位のインドが、自国民を守るために輸出をやめています。そういう防衛的な輸出規制をする国が三十カ国ぐらいになっています。これがさらに増えると極めて重大です。

 ――「台湾有事」など起こっていませんが、もしそんなことになればシーレーン(海上交通路)は封鎖され、日本に物が入ってこなくなります。日本の食料自給率はカロリーベースで三八%という低さです。ところが種やヒナはほぼ輸入という農産物が多く、それを計算に入れた実質的な自給率はコメ一〇%、野菜八%という壊滅的状況です。日本を痛めつけるには武器など不要で、食料さえ止めればいいというのが現実です。
 ――不測の事態に国民の命を守るのが安全保障です。国内の食料を国民に、いつでも調達できるようにするのが、安全保障の基本中の基本です。ほかの国はすべてそうしています。

 ところが日本では、なぜか、その根本が飛んでしまい、防衛費を四十三兆円に増やし「攻めていけばいいんだ」とか、むちゃくちゃな話になっています。トマホークなど使い物にならない米国の武器の在庫処分みたいなものに膨大な金を払えと言われています。

 ――ところが三十兆円の補正予算を付けても、農家の赤字を直接的に補てんする予算はゼロです。それどころか政府は、この期に及んでも「コメは作るな」「牛乳は搾るな」「牛四万頭を殺せ。一頭殺せば十五万円払う」と無責任な農業つぶしを続けています。

 ――「日本は米軍に守ってもらっているから米国の言いなりにならなければ」と思考停止になっています。しかし、もし「台湾有事」が起きれば米国は、日本の基地を使って日本を戦場にし、米本土に危害が及ばないようにすることは明白です。

 中国を敵視して武器をそろえても、中国が食糧輸出を止めたら日本は終わりです。日本は東アジア米備蓄機構の設立を主導したことがあります。東アジア諸国がコメを備蓄し、緊急時に助け合う仕組みです。食料を通じてアジア諸国が仲良くし、平和を維持することができます。

 ウクライナ戦争に照らしても、軍拡ではなく国内の食料と農業を守ることこそ真の「国防」であり、アジアの平和の道です。(引用終わり)

 中国と米国が「台湾」を巡って何やらきな臭い雰囲気を漂わせている。不測の事態が発生して食料の輸入が止まった場合、私たちの食卓はどうなるか。農林水産省の公式サイトにその試算結果が表示されている。それによると国内生産だけで、国民一人一日あたり二〇二〇㌔カロリーの熱量供給が可能だそうだ。

(工藤 稔)

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