四月二十三日付の新聞各紙は「トキ」報道一色の感があった。筆頭は読売。一面トップに「放鳥トキひな誕生」の大見出しで「環境省は22日、野生繁殖に向け、新潟県佐渡市で放鳥した国の特別天然記念物トキの卵が孵化(ふか)したと発表した。ひな1羽が確認され、親鳥がひなに給餌する様子も見られた。トキの卵が自然界で孵化するのは、1976年に佐渡島内で確認されて以来、国内では36年ぶりで、放鳥トキでは初めて」と報じた。第一、第二社会面にも「苦難の歴史越え」「待ちに待ったトキ」「日本産は03年絶滅」「体長20㌢生後1週間」「2世誕生 喜び沸く」の見出しが踊る。読む方がスキップしなくちゃならないのかと考えてしまうようなはしゃぎ振りだった。翌日には、社説「野生復帰への新たな一歩だ」でダメを押したりして。

 絶滅させた鳥を国の莫大な予算を使って復活させようなんてアホかとか、中国からもらったトキの子孫なのだから学名の「ニッポニア ニッポン」を返上して「チャイニーズ チャイナ」にせよとか、赤い顔が気持ち悪いし可愛くなーいとか、さまざま意見があろう。だが、地元の佐渡では、農薬を極力使わない農業や、トキの餌になる小動物が生息できる環境を復元保護する地道な取り組みが続けられていると知れば、年間五億や十億の国家予算が投じられたって構わないとも思う。洪水対策に何ほどの効果もなく、日本に誇れる清流を台無しにして、サクラマスやカワシンジュガイに代表される野生生物たち、地元の宝を絶滅に追い込むサンルダムに五百億円だか、一千億円だかを注ぎ込むならば、トキ復活に大金をかける方が百万倍ましだ。

 トキに沸く記事を読みながら、その三日前、テレビで見た「ヒグマ射殺」の映像を思い出していた。札幌市の民家の近くに一頭のクマが現れ、猟友会のハンターによって射殺されたというニュース。体長百三十五㌢、体重百二十㌔ほどの若いオスだったそうだ。報道によれば、クマは前日から出没し、当日は人家から二十㍍ほどの雑木林にいた。人を怖がる様子がなく、住宅街に侵入する心配があったため射殺したという。そのニュースを一緒に見た東京生まれの家人は、「捕まえて、山の奥に返してやることは出来ないのかしら」と顔をしかめた。

 そこでフッと頭に浮かんだのは、一九九六年のカタクリフォーラム(前週の本欄参照)で講演した獣医師にして写真家、エッセイストの竹田津実さんの話である。その講演を収録した「ふつーの自然を考える」(カタクリ文庫発行)をめくってみると

(工藤 稔)

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