十日に行われた参院選挙で、改憲勢力が三分の二の議席(百六十二)を超え、衆参両院で憲法改正を発議できる状況になった。この情勢を受けて、安倍政権応援団を隠さない読売新聞と、護憲の論陣を張る朝日新聞が、安倍首相の意向や動きをどのように伝えるのか、興味深く読み比べている。嵩(かさ)にかかったイケイケドンドン紙面を予測した読売は、腹に一物あるかのような慎重さを装う。十二日付記事は「憲法改正 険しい道」「公明、慎重な議論要求」と見出しを打って、次のように書く。

 ――参院選から一夜明けた11日、安倍首相は首相官邸で公明党の山口代表と会談し、今後の政権運営での協力を取り付けた。ただ山口氏は憲法改正について、「憲法審査会では落ち着いて議論を深めていくべきだ」と述べ、拙速な議論は避けるべきだとの考えを強調。衆参で国会発議に必要な3分の2の勢力を得たことで、首相が前のめりになることを警戒しての発言だ。

 首相は「その通りだ」と応じ、その後の記者会見でも「国会審議の進め方だから、衆院、参院それぞれがお決めになるのだろう」と述べ、改憲論議はあくまでも国会に委ねる姿勢を示した。「首相が前面に出ると警戒感が増す。当面は改憲論議と距離を置いた方がいい」(首相側近議員)と判断しているようだ。(引用終わり)

 一方の朝日、同じ十二日付からスタートした「改憲勢力『3分の2』のゆくえ・上」の見出しは、「首相 改憲論議を本格化」「具体論では各党にばらつき」「争点化避け着々と足場」と事態は風雲急を告ぐとのニュアンスで、憲法改正に執念を燃やす安倍首相の真意を探ろうとする。以下、引用する。

 ――「我が党は憲法改正草案を示しているが、そのまま通るとは考えていない。いかに我が党の案をベースに3分の2を構築していくか、これがまさに政治の技術だ」。投開票から一夜明けた11日、首相は自民党本部で行われた記者会見で、憲法改正について国会での合意形成に意欲を見せた。

 首相は選挙戦の街頭演説で、憲法改正にはいっさい触れなかった。公示前のテレビの党首討論でも「憲法改正を争点にするのであれば、何条をどう変えていくかということにしなければいけない。しかし、まだ憲法審査会において収斂(しゅうれん)をしていない」と語り、憲法改正を正面から取り上げなかった。

 ところが、参院選の投開票があった10日夜になると、テレビ番組で「いよいよ憲法審査会に議論の場が移ってしっかりと議論し、どの条文をどのように変えていくかということに集約されていく」と国会での議論を本格化させる考えを示した。改憲勢力が衆参で「3分の2」を占めたことも背景にあるものとみられる。(引用終わり)

 改憲を主張する読売が「険しい」と書き、護憲を唱える朝日が「改憲論議本格化」と報じる。これは油断ならないぞ、と感じる。

 

(工藤 稔)

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