四月二十五日付朝日の「声」欄に、東京都の元教員(84)の投稿が載った。ちょっと長いが、全文を引用しよう。「『生活綴方事件』の再来を危惧」と見出しが打ってある。

 ――「共謀罪」の国会審議が始まった。爆発物やサリンを使ったテロ行為を事前に取り締まる法律はすでにある、という記事を読み、どうして新しい法律を作るのか疑問を持ち始めた。もしかしたら、教師が逮捕される時代が再び来るのだろうか。

 戦争中の1941年、当時住んでいた茨城県の農村で、今でいう小学校の教師が逮捕され、有罪判決を受けて職を追われた。私は9歳だったが、父も教員で親交があったので、おぼろげに事実を知ることになった。

 その先生は「生活綴方」とよばれる作文教育に賛成し、児童に自由に作文を書かせていた。貧乏な生活を正直に書かせたことが「国体の変革を目的としている」とされ、治安維持法で摘発されたのだ。

 ずっと心にひっかかっていたが、数年前、既に亡くなった先生の、ご子息に手紙を書いた。返信で、早朝警察に踏み込まれ父親が連行されたこと、執行猶予付きの判決が出るまで1年半も家に帰ってこなかったことなど、詳細に教えていただいた。

 先生が戦後刊行された作文集を読むと、子どもたちの姿が方言でいきいきと描かれている。それが拡大解釈された。実際に起こったことだ。必要のない法律はいらない。

 この綴方、つまり作文教育を犯罪にでっち上げた事件は、北海道でも起きた。日本軍のハワイ・真珠湾攻撃で始まる太平洋戦争の一年前の一九四〇年(昭和十五年)十一月から翌年四月にかけて、日常生活をありのままに書く綴方教育に取り組んでいた、旭川を含む全道各地の教員約六十人が「貧困などの課題を与えて階級意識を醸成し、共産主義教育をしようとした」として逮捕された。容疑は、治安維持法違反。三浦綾子さんの長編小説「銃口」の題材となったことでも知られる。三浦さん自身が戦中、教師をしていた体験が重ねられ、二度とあんな時代を招いてはならないという、小説家・三浦綾子の遺言ともいうべき長編作品だ。

 前号の小欄で、私は八十一歳の先輩の話を紹介して、JR北海道が道北の鉄路を廃止せざるを得ない情勢と、その沿線にある宗谷管内幌延町に高レベル放射性廃棄物の最終処分場「核のごみ捨て場」をもって来ようと画策する動きが見事に符合する、と書いた。共謀罪もその大きな動き、流れの一つだと確信する。

 

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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