中国の古典にいわく、「瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠を正さず」。「ウリ畑では、かがみこんで履物を履き直すようなことはしないし、スモモの木の下では、手を上げて冠をかぶり直すようなことはしない」。ご存じの通り、ウリやスモモを盗んでいると勘違いされないようにしなさい、という戒めである。

 この男は、ウリ畑でくつを履き直し、スモモの木の下で冠をかぶり直して、盗んだと指摘されると、当初はそんなことはしていないと否定した。証人や証拠が次々に出てくると、そのどこが悪いと開き直った。さらに疑いが強まると、官僚を動かして証拠を破棄し、あるいは改ざんして、果ては法律を変えて検察の人事にまで介入しようと画策した。

 この男の政治姿勢を俯瞰すれば、すべては我が身や身内、お友達、お仲間にウリやスモモを与えようという姑息な情熱だったであろう。加えて自らの政治的業績を誇示し、政治的遺産を積み上げるためのパフォーマンス。「森友」も「加計」も、「桜を見る会」もその「前夜祭」も、おそらく「伊藤詩織さんの性被害握り潰し」も、自らの保身、あるいは身内偏愛の延長線上にある。分かりやすく言ってしまえば、国民の金で身内やお仲間に“ええかっこしい”をしまくった御仁。

 その男、元首相の国葬が行われるそうだ。二十六日朝のNHKラジオのニュースは次のように報じた。
 ――安倍元総理大臣の「国葬」で、政府は、弔旗の掲揚や黙とうによる弔意の表明を各府省に求めるための閣議了解を見送る方向で調整しています。

 「国葬」を行うに当たって国民に安倍氏への政治的な評価を強制するものではないと明確にするねらいがあるものとみられます。
 来月二十七日に東京の日本武道館で行われる安倍元総理大臣の「国葬」について、政府は必要な経費として二億五千万円を今年度予算の予備費から支出することを二十六日、閣議決定することにしています。
 これに伴い、政府は当初「国葬」当日に、弔旗の掲揚や黙とうによる弔意の表明を各府省に求めるための閣議了解を行うことを検討していましたが、「国葬」をめぐって世論の賛否が分かれていることも踏まえ、見送る方向で調整しています。
 政府関係者によりますと、内閣と自民党による「合同葬」など、戦後、国が関わった総理大臣経験者の公式な葬儀の大半で、官庁に弔意の表明を求めるための閣議了解が行われてきていて、今回、見送られれば、異例の対応となります。
 政府としては、今回の「国葬」を行うに当たって国民に安倍氏への政治的な評価を強制するものではないことを明確にするねらいがあるものとみられます。(引用終わり)
 近年のNHKらしく、このニュース原稿ではひと言も触れられていないが、「旧統一教会」の問題が関わっていることは間違いない。暗殺された当初、政府・与党は安倍元首相と統一教会の関係がこれほど国民の耳目を集めるとは予測できなかったのだろう。「国民に安倍氏への政治的な評価を強制するものではないことを明確にするねらいがある」だって? それなら国葬なんかするなよ、って話じゃない。ラジオを聞きながら笑ってしまったぜ。

 私事ですが、ちょっと近況報告を。町の名医に偶然見つけてもらった、腹部から胸部にかけての三つの大動脈瘤の二回目の手術を七月十四日に終えました。胸部にある三個目の「瘤」は場所が悪く、一、二回目と違い切開をともなう手術になります。

 間もなく七十一歳という年齢による血管の劣化もあって、手術には軽度の脳梗塞をともなう可能性が一~二割程度あるとのこと。放置することで瘤が破裂すれば即死ということですから、覚悟を決めて手術台に横になることにしました。

 しばらく体力を回復させながら三回目の手術に備えます。小欄も不定期になりますが気力を奮い起こして書きたいと思います。どうかよろしくお願いします。(工藤稔)

(工藤 稔)

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