元日の午後四時十分ごろ、携帯電話がおかしな音を立てた。テレビをつけると、地震だという。かなり大きな地震みたいだ。しばらくして、震源は石川県能登地方で、同県志賀(しか)町の震度は「7」だと伝えられた。「石川県志賀町…」、聞いたことがあるような。何年か前、所属する団体の研修旅行で能登に行ったときに、バスでこの町を通った記憶があるぞ。「そうだ、原発じゃないか!」。

 最初は、「この地震による津波の危険はありません」と言っていたはずのNHKが、途中から「津波の到達時間は…」と言い始めた。が、原発に関する情報は一つも伝えてくれない。「震度7」って、ただ事ではないんじゃないの? 二〇一一年の、あの大震災も「震度7」だったじゃん。北海道沿岸の二十㌢だか、三十㌢だかの津波の情報はもういいから、志賀原発はどうなってるんだ? 新潟県も場所によって「震度6弱」とかかなり揺れたみたいだけど、世界最大級の柏崎刈羽原発は大丈夫なの? それを伝えてくれよー。

 私のように考えた方は少なくないと思うが、どうも「岸田さまのNHK」は原発については触れたくないようなのだ。いつまで待っても志賀原発についての情報は報道されなかった。で、民放にチャンネルを変えたら、「原子力規制庁によりますと…」とやっと原発の話が出てきた。「午後五時四十五分時点で、今回の地震と津波による影響は確認されていないということです」だと。

 結局、真実を知るのは、三日の新聞まで待たなければならなかった。以下、三日付毎日新聞の記事。見出しは「志賀原発 冷却水あふれる」。
 ――北陸電力によると、石川県能登地方で発生した地震で、停止中の志賀原発1、2号機(石川県志賀町)の使用済み核燃料プールの冷却水計421㍑が床にあふれた。この影響で1号機のプールの冷却ポンプが一時停止したが、すぐに復旧した。冷却水は放射性物質を含んでいるが外部への影響はなく、2日午前時点で、安全上の問題は確認されていないという。

 また、外部から電力を受けるための変圧器が1、2号機で1台ずつ破損し、配管から計約7100㍑の油が漏れた。別系統から電源を確保できているという。林芳正官房長官は1日午後の記者会見で「変圧器で火災が発生し消火した」と発表したが、北陸電は2日、「火災の発生はなかった」と説明した。
 原子力規制庁などによると、日本海側の各原発でも異常は確認されていない。(引用終わり)

 NHKの緊急特番の女性アナウンサーは、津波襲来を伝えながら、「東日本大震災を思い出してください」「高台に逃げてください」と絶叫するように呼びかけた。「このテレビを消して、いや、そのままにして、早く逃げてください」と叫ぶのを聞いて家人と二人、思わず笑ってしまったのだが、原発が立地する志賀町の住民は、どんな思いでこの絶叫を聞いたのだろう。放射能が漏れているとしたら、果たして戸外に出て走って避難するのは安全なのか、本当に原発がある高台に避難して良いのか、と迷ったのではないか。

(工藤 稔)

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