「旭川市議会議場に国旗及び市旗の掲揚を求めることについて」の件名が付された陳情書が提出されたのは二〇二三年十月二十三日のこと。提出者は、自民会派の市議会議員の後援会幹部だ。

 陳情の要旨には、次のようにある。

 ――現在、旭川市議会議場には、国旗及び市旗の掲揚がなされていない。しかしながら、全国的な状況を見ると、平成二十八年の時点で、中核市四十七市のうち、実に九割近い四十一市が各市議会議場に国旗及び市旗を掲揚している。北海道内では、道都札幌市、苫小牧市、稚内市が各市議会議場に国旗及び市旗を掲揚している。
 国旗は、国や地方自治体における様々な行事、式典、国際的スポーツ大会等の公共の場に日常的、慣習的に掲揚されており、私たち国民に身近なものとして浸透している国の象徴といえる。法的にも、平成十一年に国旗及び国歌に関する法律が制定され、その位置付けが明確になっている。(中略)
 今後、ますます国際化が進展する我が国、そして旭川市において、旭川市議会議場に国旗及び市旗が掲揚され、その厳粛な雰囲気の中で議員各々が緊張感を持って職務に携わり、そのような中で市の重要事項が決定されていくことこそ、私たち旭川市民の旭川市議会への信頼感を高め、さらには国際社会における旭川市の位置付けを明確化し、次世代を担う市民の国際感覚を養うことにつながっていくと考える。(後略・引用終わり)
 対して、市議会議場に国旗を掲揚しないことを求める陳情書が三件提出されている。そのうちの一つ、新日本婦人の会旭川支部から二〇二四年五月十日に提出された陳情の要旨を。
 ――新日本婦人の会は、創立以来六十一年、核戦争をなくし、平和と暮らしを守り、女性の要求実現と子どもの幸せのために全国で運動している、国連NGOの女性団体である。
 日の丸は第二次世界大戦時、日本軍が様々な場面で利用してきた歴史がある。戦時中、国民は国旗に頭を下げなければ非国民とされ、若者が日の丸の鉢巻をして特攻隊となって死んでいった歴史と重なる。日本と同様、第二次世界大戦で侵略国であったドイツとイタリアは大戦当時と同じ旗を国旗としていない。戦後、戦中の旗をそのまま使用しているのは日本だけである。
 現憲法下では、憲法十九条の「思想及び良心の自由」とともに、憲法十三条では「個人として尊重」されると定められている。特に思想・良心の自由は内心の自由も含まれる、とある。日の丸に対しての考えは国民の世論調査の中でもいろいろある。(中略)
 市議会の議場とは自由な言論の場である。違った意見を述べ合うことが保障され、違いを認め合う場である。日の丸を掲揚することで、国家への忠誠を求めるように誤解されてはならない。旭川市議会の議場に日の丸を掲げることには反対である。(後略)

 なんだか、すごく懐かしい感じ。ちょっと昔、そうだなぁ、三十年前か、四十年前か、その時代には珍しくなかった論争だろう。先の戦争が終わって八十年。戦争を実際に体験した人は、ほとんどこの世にいない。それと歩を合わせるように社会が徐々に右傾化し、軍国主義の象徴だった日の丸に対する忌避感を露わにする人も少なくなった。

(工藤 稔)

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