蒸し暑い日が続いた。そのせいでもないのだろうが、お盆を挟んだこの時期、たて続けに遭遇したムカッと来る場面を書き立てて、ちょっとタイミング外れの感はあるが、暑気ばらいということで。

 「ムカッ」その一。スーパーマーケットにテナントとして入っている、あるお菓子屋に買い物に行った折のこと。時間は午前九時五十分過ぎ。スーパーマーケット自体はすでに開店しているのだが、お菓子屋は午前十時からの営業らしい。中年のオバサンが一人、ケースに被せてあった布を片付けたり、準備中の様子。が、店頭に立った私を認識しているはずなのに、一向に「いらっしゃいませ」の言葉がない。私は、「まだダメなのかい?」と声をかけた。やさしく。と、こちらを振り向いたオバサン、壁の時計をチラリと見やって、こう言ってのけた。「ちょっと早いけど、いいですよ」。

 パートタイムなのだろう。もしかすると、十時から、一時間いくらの給金が発生するのかもしれない。その前は、例え十分でも、五分でも、彼女にとっては時間外なのだ。さらに、スーパーマーケットとの契約で、午前十時前は、商売をしてはいけない、という契約になっているのかもしれない。それにしても…。急いでもいたから、私は黙って菓子を注文し、お金を払って店を出た。

 その二。先述の店とは別だが、またまたお菓子屋。店に入った時、中年のオバサン従業員が、少し若い従業員と話をしていた。仕事のこと、どうも若い方に注意をしている雰囲気。二人とも「いらっしゃいませ」と言った。ところが、私がショーケースの前に立ってお菓子を選ぶ素振りを見せても、中年オバサンは話を止めない。若い方は、こちらに視線を向けてちょっと困っている様子。「注文していいかな…」と声をかけた。若干、ムカッとした気持ちが伝わるほどの語気だったかもしれない。

 菓子を注文して、お金を払い、店を出る時、若い方は、「ありがとうございました」と明るく言った。ところが、肝心の中年のオバサンの方は、押し黙ったまま、こちらに背を向けて棚の菓子を並べる作業を続けていた。

 その三。居酒屋でのこと。旭川では、多少名の通ったお店。カウンターで飲んでいると、ご多分に漏れず、旭山動物園の波及効果で地元の馴染み客に加えて、市外からのお客も少なからず来店している様子が見て取れる。と、支払いをすませたサラリーマン風の客が、領収書を出してもらいたいと店の主人に頼んだらしい。その主人、忙しく立ち働いている従業員の一人に大きな声で命じた。「ちょっとちょっと、領収書書いてやって」。

 旭川は、旭山動物園を核にした観光を、不況を抜け出す経済対策の柱に据えているらしい。お菓子屋も、飲食店も、道外から旭川にやって来る観光客の最前線に立つ商売だろう。バカ丁寧にする必要はないし、コンビニのバイト店員が発する「いらっしゃいませこんにちわ」のマニュアル挨拶がいいなどとは決して思わない。あけっぴろげ、気取らない、朴訥、どちらかと言えば言葉足りずの、開拓地・北海道らしい、洗練されない応対も、それはそれで悪くないし、残していきたい文化の一つだとは感じている。

 だが、である。客をいやな気持ちにさせては、いけない。二度と来るものか、と思わせてはいけないのだ。自分自身の所作を振り返りながら、社員教育を含む、地域の教育力、文化度、迎える精神、まだまだだなぁ、これからだなぁ、と感じさせられる蒸し暑い夏だった。

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