「油かかるから、ゆっくり走るからな」――と、先日乗った釣り船の船長。去年までなら一時間ちょっとで到着した沖の釣り場まで、三十分以上も余分に時間をかけて走る。キップの良さで売る船長にして、「油代に潰されるわ」の泣きも入る状況だ。報道によれば、今日十五日、全国の二十万隻の漁船が燃料費暴騰に抗議して一斉に休漁、ストライキを行うという。

地場の家具メーカーの経営者(54)は、「暖房手当、今年は出せるかどうか…」と苦笑いだ。木材をはじめ、塗料、包装材、運賃など、あらゆる原材料費の値上げが続く。かと言って、そのコストを商品の価格に転嫁できない。当然、利益率が下がる。社員と一緒になって、電気をこまめに消したり、残業を減らす工夫をしたり、もちろん今夏は、冷房のスイッチは切ったまま。あとは、どこを切り詰めるか…。

買い物から帰って来た家人が嘆く。「なんでも値上げなのね。しかも、容量が少なくなっているのに、値段は高くなっている気がしてならないの…。食品の値段は、感覚としては、二倍よ。これって、インフレじゃないの?」と。

ムムム、この状況って、遠い昔、学校で習った、ほとんど憶えていないけど、もしかして「スタグフレーション」ってヤツじゃないの?

外来語辞典を引くと、「経済活動の停滞、不況と物価上昇が併存する状態」とある。企業の業績は見る見る悪化し、従業員の賃金は下がる。一方で物価は上昇を続ける。経済学的見地から言えば「需給のバランスが取れるまでの、ひとつのプロセス」なのかも知れないが、富も蓄えも持たざる者にとっては、たまったものではない。

製造業の中小企業経営者(58)は、言う。「うちは三月決算で、その数字はまぁまぁだった。だけど、四月以降のコスト高と売上げの落ち込みを見ると、今年は夏のボーナスは額が少ないから何とか出せるだろうが、秋の暖房手当も、冬のボーナスも、多分、ナシだ。社員には、すでに説明してあるけど、灯油が百二十円だ、百三十円だという時に申し訳ないが、会社が潰れるかどうかという状況を分かってもらわないと」。

今は「暑い」だの、「ビールがうまい」だの、のんきなことを言って過ごしていられるが、あと四カ月もすれば空から雪が降って来て、気温がマイナス二十度にもなって、灯油が去年の一・五倍、五年前の三倍以上になっちゃって…。

さて、このスタグフレーション、どうにも舌を噛みそうな時代、中小零細企業とその社員はどうやって生き延びればいいのか、居酒屋で、そんな話になった。ある少々乱暴な論を吐くことも多い血気盛んな四十代の経営者が「みんな、夜は早めに家に帰って、電気消して、テレビなんか見ないで、布団かぶって寝るのよ。そうすりゃあ、出産率も上がるんじゃないか? 税金使って少子化対策なんてしなくても、子どもが増えるぜ」と笑い飛ばした。もう、そんな開き直りの気分でやり過ごすしかない、それも一つの考え方か――。

先週の本欄「道議会議員の報酬について」の内容で訂正があります。「任期四年のうちには、百二十万円を使って海外視察のスペシャルサービスまで用意されているじゃないのさ」と書きましたが、道民の批判に押されて、現在は「百万円」に減額されています。さらに、平成十八年度、十九年度は、海外視察に出かけた議員はゼロ。自粛しているそうです。さすがの道議の先生たちも、本家の北海道が財政再建団体に転落する瀬戸際にある状況下、百万円の税金を浪費して海外旅行に行く勇気はなかった、ということでしょうか。

さて、今週も一面で取り上げた道議会議員の報酬・待遇を知るにつけ、これまでいかに、数々のお手盛りの既得権を得てきたことかと驚くばかりだ。それは、知事を始めとする道の理事者と手を組んでのことと言っていいだろう。もちろん、現知事だけではなく、歴代の知事も責任を負う。

旭川市議会は、市民の強い批判を受けて〇三年から、海外視察を凍結している。途中、道の市議会議長会が主催するヨーロッパ視察に二人の議員を派遣したことはあるが、原則として凍結中だ。以前、市議の海外視察についても申し上げたが、私は、議員の海外視察に公金を投じる必要はないと考える。議員の海外視察は、いわば議員個々の知識を広げたり、教養を高めたり、まぁ良くて情報を得たり、つまり費用対効果を測定できない、ぼんやりしたものだ。観光旅行と限り無く重なる部分も当然あろう。議員個人の資質を高める、そんな曖昧模糊とした目的の旅行の費用を、なぜ、選挙民が負担しなければならないのか。どうしても必要だと言うなら、自腹を切って行けばいい。そのために、年間五百万円もの政務調査費が懐に入っているじゃないか。北海道の財政危機の責任の一端は、道議会を構成する議員個々にもあるという事実を忘れてもらっては困る――。

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