自宅の菜園の雪解けは、昨年に比べて二週間は遅い。ようやく日当りの良い端の方の土が顔を出し始めた。昨年、友人の農家から分けていただいた籾殻の炭を融雪剤のつもりでパラパラと撒いていると、わずかに顔を出している畑に黄色がかった芽が出ているのを見つけた。あら、ニンニクさん…。昨秋十一月、二十粒ほど蒔いた種が、ちゃんと芽を出してくれた。頭の上の雪が消えたのを見定めたように。思わず、「お前、えらいねぇ」と声をかけてしまう。

 赤松農水相が野菜の高騰を受けて、「できるだけ早出しをしてもらって、前倒しをして、少しでも値段が安定するように、できる範囲でですね、努めていきたい」と述べたと報道された。この二世議員のお大臣、野菜がベルトコンベアに乗ってジャカジャカ生産できるとでもお思いか。ニワトリに向かって、「品薄だから、前倒しで卵を産んでくれ」と命じているようなものだ。生長の途上で出荷が可能なら、これだけの高値、農家はとっくに収穫して出荷してるわい。国は国民の食を案じていますよ、というポーズなのだろうが、それにしてもこの程度のお方が、この国の農政をリードしているのよね…。

 家人と二人、私が自然食品の店「北海道大地」で買い込んできた三百円のキャベツを前に話し合う。「種を蒔いて苗をつくり、肥料をやって、虫や病気に気を付けて、二カ月も三カ月もかけて育て上げ、箱に入れて、輸送費掛けて運んできて、この大きさで三百円というのは、高いと言えないのではないか」。家人は、好物のロールキャベツを作り、私はトンカツのつまに千切りにする。それでも、まだ余る。高騰と言われる今の値段が、生産する側にとっては正当なのではないのか、猫の額ほどの畑を管理する者は、本気でそう思う。枕はここまで。

 市経済観光部が制作した「観光マップ」を取り上げた前週の小欄について、何人かの方から電話をいただいた。そのお一方、緊急雇用創出推進事業の一つとして、国のお金が道を通じて交付され、この観光マップ制作を手掛けた担当者から、「少々、お話があるのですが」との電話があった。彼の「お話」の主旨をまとめてみると――

 「旭川市民がよく行く麺屋」のページに、二店の老舗のラーメン店の名がなかったという私の指摘について、「買物公園を歩いている市民三百人を対象にアンケートを実施して、そのデータをもとに紹介する店を決めた」。また、冬まつり開催中の一日、募集した三十一人の市民が、街中を歩いたり、ときわ市民ホールで意見交換会を開いてパンフの内容を検討した。これまでの観光パンフには盛り込まれない、市民参加型の手法で作成したパンフだという情報が、「直言」の中にないのは、いかがなものかということ。

 もう一点は、この事業を受託した会社が、事業が終了した時点で、雇用した社員を解雇したのは、継続して雇用するという契約、条件ではないのだから、それを「不要な人は切る」という表現は、頑張って制作した企業や働いた人たちに対して、失礼ではないか、彼らをがっかりさせるのではないか、という指摘だった。

 私は、事業の当事者としての彼の意見や指摘を理解する。この「まちなかマップ」、買物公園の情報誌「ほっこる」のパクリでは?と邪推されようが、使いやすいサイズや若者を意識した構成は、評価されていい。ただ、三百人程度のアンケートの結果が、「旭川市民がよく行く麺屋」、「よく行く居酒屋」「よく行くカフェ」という表現になるとすれば、それこそ、その選に漏れた店に失礼ではないか、と思う。確かに、こうしたマップに掲載するかしないかの選別は、難しいだろう。あまたある、この手のマップや紹介本と一味違う内容にしたい、という作り手側の思惑も分からないではない。だが、「よく行く△△」は、いささか不穏当だと思いますが…。

 私が言いたかったのは、国から道を通じて下りて来た一億円近い緊急雇用対策向けのお金を、幾つかの事業に振り分けて、期限付きの雇用を生み出したとしても、その事業が終了した時点で解雇となることが明白であるのを、市は意に介さなくて良いものか、ということだ。企業の側は、せっかく雇って、短い期間とはいえ共に仕事をした社員を切りたくはないはずだ。全員とは言わないが、その中の何人か、社に貢献できると判断した人を継続して雇用できるサポート制度のようなものを市の独自の施策として打ち出せないものか、ということだ。

 この「まちなかマップ」の制作には、千三百七十七万円が支出されている。十一人の新たな雇用を創出したというが、四カ月後には、彼らは再び職を失った。「一時でも、職と収入を得たのだから、緊急雇用としての効果はあったのだ」と評価して良いのかどうか。国のお金で、国の施策に沿って、その仕組みの中で最善を尽くした、それが地方の自治体として正しいあり方なのか。三千百人の市職員のトップである西川市長の、地方自治に対する理念を問いたい、というのが前週の弊欄の主旨でありました。

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