北海道中小企業家同友会道北あさひかわ支部(支部長・渡辺直行カンディハウス会長、加盟六百三十社)の農業部会の研修で、先日、天塩町と幌延町に行って来た。車で片道三時間半の道のり。天塩で酪農を営む会員の牧場と間もなく稼動する加工施設を見学させてもらい、その後、幌延深地層研究センターを訪ねるスケジュールだった。参加者は九人。どうしてお前が? ハイ、農業以外の者も関心があって年会費を納めれば部会員として登録できるんです。

 今研修の目的を参加した一人、農業生産法人の代表に言わせると、「TPPは、オレたちが好むと好まざるとにかかわらず、何らかの形でやって来る。その影響に対する対処は、その時、その場面でやるしかない。農業にとって、消費者にとって、相当厳しい状況になるかも知れない。だけど、全滅することはないだろう。消費者の目線に立った農業という理念を掲げ続ければ、オレたちは生き残れると思うし、そう信じてやるしかない。だけど、原発は違う。もし泊原発で、福島第一原発と同じような事故が起きたら、北海道農業は壊滅的な打撃を受ける。幌延に核廃棄物が運び込まれることになれば、仲間の酪農家はどうなるか。そのことを現実的な問題としてきちんと整理して考えておかなければならない。その勉強の一つとして、深地層研究センターを見学するのはいいことだろう」。

 訪問した牧場の主は三十歳。戦後、福井県から入植した三代目だ。妻は専業主婦。七歳を頭に三人の子どもがいる。父親が昨年亡くなり、今は母親とスタッフ一人、三人で百頭の牛を飼っている。乳を搾っているのは五十頭。朝、乳を搾り、昼間は牧草地に放して草を食べさせ、夕方、牛舎に帰って来た牛からもう一度乳を搾る。従来の、牛舎につなぎっ放しにして高栄養価の餌を与え、搾れるだけ乳を搾る酪農に対して、牛の体に負荷をかけず、自然な形で乳を出してもらう「放牧酪農」という形態なのだそうだ。

 自宅裏の古い蔵を改修した加工施設で、試作品を食べさせて、というか飲ませてもらった。濃厚な牛乳の風味とさっぱりした酸っぱさ。「全く新しい商品なんです。しいて言えば牛乳豆腐のスイーツでしょうか…」と若き牧場主。加工部門の担当は奥さんが中心になるようだ。間もなく本格稼動し、取りあえず、この牛乳豆腐のスイーツを含め三つの商品を札幌圏のショップや千歳空港で販売する計画だ。極北のこの地で、妻と母とともに三人の子どもを育てながら、酪農家として生きていく覚悟が、淡々と気負いなく草と牛と乳と、新たな挑戦の話をする全身からにじみ出る。都会でだらしなく暮らす我が身を振り返り身をすくめた。

 深地層研究センターは牧場から約三十㌔㍍の場所にある。見学した時にいただいた資料によると、この施設は、①原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物を地層処分するための技術が、実際の地質環境で機能することを確認すること。②わが国固有の地質環境を理解すること。③深地層の環境を体験・理解すること、だそうだ。この文言から察するに、研究という目的のほかに、広報の役割も担っていると理解していいだろう。

(工藤 稔)

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