こうした振る舞いが、強いリーダーの証ということなのか、それとも独裁の一端なのか、私には判断しかねる。ただ、「気持ちの悪さ」を感じるのは事実だ。

 十一月二十八日付の日経の社説は「政府の圧力は民の活力をそぐ恐れがある」の見出しで次のように書き始める。

 ――賃金も設備投資もいくらにするかは企業の経営判断による。この市場経済の原則を、政府は十分に理解しているのだろうか。

 安倍政権が経済界との「官民対話」で、賃上げや設備投資を促したことを日経は「圧力」と書く。安倍首相の政権運営を基本的に支持してきた日経としては異例の「かみつき」である。記事は続く。

 ――企業にゆだねられている賃金や投資決定に政府が口を挟むことに、違和感を覚えざるを得ない。企業によって経営状態は異なる。政府の圧力で無理な賃上げや設備投資に追い込まれるようなことがあれば、企業の競争力が損なわれる恐れがある。(中略)

 中国経済の減速などを背景に企業は設備投資を先送りし、個人消費も力強さを欠く。7~9月期の実質国内総生産(GDP)は2四半期連続でマイナスになった。一方で企業業績は堅調だ。政府が企業に賃上げや積極投資を迫る気持ちもわからないではない。(後略・引用終わり)

 日経は「わからないではない」と政権を気遣う素振りを見せるが、本音は「大風呂敷を広げたアベノミクスは、実は、失敗している」と言いたいのではないか。「大規模な金融緩和」「拡張的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の三本の矢で、とっくに二%のインフレ目標を達成し、労働者の賃金は上がり、国内消費は増大して、日本は世界の中心で輝く国になっているはずなのに、ああそれなのに。増えていると自慢する雇用は非正規ばかり。円安の恩恵は大企業の内部留保となって、輸入品の高騰で庶民は四苦八苦。年金の掛け金は増えるのに、支給は減る一方よ。

 憲法学者や内閣法制局長官経験者、最高裁判事ら専門家はおろか、自民党の有力OBからも強く憲法違反を指摘され、国民の過半が反対しているのを承知でごり押しした安保法制が国会を通過した直後から、政権は国民の目を逸らして、関心を経済に向けようとパフォーマンスを繰り返す。携帯電話の使用料を下げろ、社員の給料を増やせ、全国平均七百九十八円の最低賃金を千円に上げろ。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。