道新二十一日付二面、「消費者物価2・1%上昇」「4月 13年ぶり2%超伸び」の見出し。嘘つき元宰相に「子会社」呼ばわりされた日銀総裁の悲願「物価上昇率二%」達成だー――。

 家人は、亭主である私と買い物に行くのを嫌がる気配がある。近ごろ、「買い物に行こうか」と誘うと、微妙な間を置いて、「何を買うか、メモをして行こうね」と答えることが多い。少し前までは、そんなことなかったのに。一緒に楽しく買い物をしていたのに。

 彼女が一緒に行くのを忌避する理由は、分かっている。私が「値段を気にせずに、余計なものを買うから」である。経済観念が希薄な私(自覚はない)に比して、彼女は決してケチではないが、無駄遣いはしない気質だ。笑い話として今でも二人の間で交わされるのは、高校時代の体育着を子どもを産んでからもしばらく着用していたというエピソードだ。最近は、娘の“お下がり”の靴や上着を愛用している。「新しいのを買ってやる」と言うと、本気で怒る。
 揚げ物が好物の私は、スーパーマーケットで「サラダ油」「天ぷら油」「キャノーラ油」が平積みで売られていると、条件反射的に買い物籠に入れる習性がある。パブロフ先生の犬に近い。よだれは垂らさないけど。すると彼女は値段を確かめた上で、五回に四回は、無言で買い物籠から売り場に戻す。そして「安くないわ」と言う目で私を見る。半世紀近く一緒にいると、目は口以上にモノを言う。

 報道によれば、ウクライナ戦争で小麦の価格が世界的に高騰しているそうだ。大企業や多国籍企業のためのアベノミクスがもたらした円安、原油高、新型コロナ禍からの経済回復、そして異常気象など諸々の条件が重なり、あらゆる食品の値段が跳ね上がる。先述の食用油はもちろん、スパゲティ、パン、うどん・そばなどの麺類、乳製品、菓子やチョコレート…。

 友人の農業者から分けてもらった炊き立てのご飯を食べながら、老夫婦は今日も、「お米って、どうして、こんなに美味しいんだろうね」と感嘆する。「粉にして、こねて、発酵させて、焼く」という複雑な工程を経なければ口にできないパンと、そのまま水に浸して炊くだけのコメと、主食としてどちらが優れているか、一目りょう然じゃないか、と夫婦の話は一致する。

 そして盛り上がる。「コメが余って、多大な税金を投じて造った水田でコメを作れない。国は、コメを作らない農家に金を払う。そんなバカな話があるものか」「コメを食べればいいのよ。米粉でパンを焼く。米粉でスパゲティを作る。米粉でラーメンやうどんの麺を打つ。減反政策なんかクソ食らえよー」と。

 十九日付毎日新聞の「特集ワイド」は、経済アナリスト・森永卓郎さんのインタビューだった。こんな話である。

 ――実は電気代、ガソリン代などの上昇が顕著なだけで、国産の食品の値段はほとんど上がっていません。国産の中で上がっているのは、輸入原材料の影響を受けたものなんです。

 確かに、国際商品取引の対象である小麦や原油などは投機で価格がつり上げられている。

(工藤 稔)

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