今月一日、会社に郵便で「アベノマスク」が届いた。二枚。封を開けて、差出人・厚生労働省の「みなさまへ」を読んだ。布マスクの利用・洗濯方法が書いてある。①衣料用洗剤で、もみ洗いではなく、軽く押し洗いしてください。②十分なすすぎをしてください。③乾燥機は使わず、陰干しで自然乾燥してください。そして目安として、「水2㍑に対して洗剤0・7㌘(小さいスプーン2分の1)」。ほかにも、「正しいマスクの着用」とか、「『新しい生活様式』の実践例」とか。お上に、ここまで事細かに指図というか、指示というか、私生活に踏みこまれるようで、なんだか気持ちが悪くなった。

 報道によれば、菅義偉官房長官は一日の記者会見で、全世帯向けに配布したアベノマスクを自らは使わず、自治体や慈善団体に寄付する動きが全国に広がっていることをめぐり、「次なる流行にも十分反応できるよう、布マスクを多くの国民が保有することに意義がある」と述べたという。つまり、「新型コロナウイルスの第二波襲来に備えて取っておきなさい」という意味である。

 弊社では、女性社員がアベノマスクの回収箱を用意した。彼女の自宅に届いた二枚入り透明封筒を持って来て、会社のと、私の自宅に届いたのと、回収箱には今のところ三通。何通かまとまったら、マスクの寄付を呼び掛けているグループに届けるという。そのグループは教育委員会に寄贈するそうだ。

 出来の悪い漫才の台本みたいな話である。あるいは、壮大なスケールのブラックユーモアだ。当初四百六十六億円とされていたアベノマスクの配布費用は、二百六十億円に圧縮されるという。うち配送費が七十六億円。そんなお金をかけて、全国津々浦々のポストまで届けて、回収箱を作らせて、集めさせて、ようやく布マスクを使ってくれる人や団体の手に渡る。直接、必要な人に、団体に向けて発送すればいいだけの話じゃないか。二百六十億円もかけて笑わせてくれなくて結構ですから。枕はここまで。

 親しくしている複数の経営者に心配された。「お前の会社も広告の売上げが減って大変だろう」と。そして、「たったひと月、売上が対前年比で半減したという書類を出せば、二週間後には二百万円振り込まれる。ほとんどノーチェックだ。もらわなきゃ損だぞ」と勧められた。

 「持続化給付金」のことだ。調べてみると、二〇二〇年一月から十二月の中で、売上げが前年同月比で五〇%以上減少した月を選び(減少月)、前年の総売上げから、減少月×十二を引いた金額が給付金となる。その上限は法人二百万円、個人事業主百万円。

 彼らは、ちゃんとした会社の、まじめな経営者である。話を聞けば、「コロナ」の影響を受けて厳しい情況を強いられてはいるが、いずれも破綻するような瀬戸際にあるわけではない。でも、「売上げの一部を翌月に回す」程度の操作で、国から二百万円が振り込まれる。全国で、どれほどの、本当はそれほどは困っていない企業が、安倍首相が「世界最大級」と胸を張る「コロナ対策」の恩恵にあずかっていることか。

 大手広告代理店・電通や、あの竹中平蔵氏が会長を務める人材派遣大手・パソナがらみの“トンネル団体”が、この持続化給付金事業で、濡れ手で粟の商売をしている実態が暴露された。第一次補正予算で七百六十九億円、第二次補正でも八百五十億円という巨費が、コロナ禍で売上げが激減した中小企業の救済、支援のために投じられる。

(工藤 稔)

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