弊社の経理担当の女性社員が、朝、事務所の掃除をしながら言う。「総理大臣が、近しい人とか、応援してくれる人とか、お仲間とかを招いて、桜を眺めようが、お酒を振る舞おうが、お土産を持たそうが、私、いいんです。勝手にやってください。でも、私たちが本当に苦労して納めた税金を、そんなことに使うのは許せない。消費税が二%上がって、会社も、私の生活も、どれだけ大変か、全く分かっていないんだと思う。税金返せーって叫びたい」。税金を個人的な酒食に使われた腹立たしさ。彼女の怒りの度合いは、森友や加計事件に対してよりも格段に高い。

 二十一日付読売新聞二面「安倍首相の一日」【20日午後】に次のようにある。

 ――6時39分、東京・平河町の都道府県会館。同会館内の中国料理店「上海大飯店」で内閣記者会各社のキャップと懇談。8時52分、東京・富ヶ谷の私邸。

 「桜を見る会」をめぐっては、「税金の私物化」「公職選挙法違反」「国会における虚偽答弁」など次々に疑惑が噴き出している。それにもかかわらず安倍首相は、野党が求める国会審議は無視を決め込み、この“事件”に関して記者のぶら下がり取材にも、十八日以降、応じていない。前号の小欄で書いたが、十五日に行ったぶら下がり取材も、報道によればわずか十分前に連絡してきて、若手の記者が多いという首相官邸のエントランスホールで、一方的に主張を述べただけ。記者会見を開く気配もなく、あの姑息なぶら下がりで、説明責任は果たしたと言わんばかりだ。

 その後も、ウソから始まった弁解は、説明するたびにウソの上塗りとなって、政府側の人間が発言すればするほど矛盾が拡大し、疑念は深まるばかりだ。そもそも、出席者の名簿を「個人のプライバシー」を理由に公表しないとは何事か。私たちの税金を使って、私たちの政府が公式に開く行事である。その招待者の氏名は、主権者たる私たち国民に堂々と知らされなければならない。どこに「個人情報保護」などが入り込む余地がある。

 そうした国民のうっ憤が爆発しそうな状況にあって、マスコミ各社のキャップが雁首そろえて、当の首相と中華料理の円卓を囲んで懇談ですか。内閣記者会の主催なのか、官邸の主催なのか知らないが、ぶら下がりも拒絶し、会見も開かない、国民の「真実を教えて」という声に応えようとしない総理大臣に対して、抗議の意志を示して、ボイコットするという選択肢はないのかい。報道人としての気骨を見せて、ウソつき政権を揺さぶるくらいの姿勢を見せてくれてもいいんじゃないのか。田舎の報道の世界で仕事をするオジサンは、そう思ったりする。

 同じ読売「安倍首相の一日」【21日午後】には。 

 ――7時24分、東京新宿区のフランス料理店「オテル・ドゥ・ミクニ」。ジャーナリストの櫻井よしこ氏、評論家の金美齢氏、作曲家のすぎやまこういち氏らと会食。10時6分、東京・富ヶ谷の私邸。

 そんなマスコミ各社の体たらくを見透かすように、安倍首相は名の知れた「極右」のお友達とおフランス料理を食べながら、前夜より一時間も長く談笑したんですね。森友も、加計も、政権の作戦通り、状況証拠は果てしなく“クロ”なのに、文書の改ざんという犯罪まで明らかになったにもかかわらず、憲法に反して国会を開かず逃げまくって、口の曲がったオジサンを筆頭に誰も責任を取ることなく、いつしかフェイドアウト。

 今回も、北海道新聞によれば、官房長官が「これで(桜を見る会の)名簿が出てきたら自分の政治生命は終わる」と述べるレベルの「汚い情報の隠蔽」が、またまた成就すると高をくくっている。こんな政権を支持する方は、「税金返せー」と叫びたくならないのだろうか。不思議な国だ。いささか長い枕は、ここまで。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。