江口日曜堂(六ノ八)の店主・江口建二さんからハガキが届いた。「この度向かいの喫茶ルルで戦前の画展や古い包装紙など年配の方にはなつかしいものをならべます。何かヒントになれば幸です」とある。

 江口さんは一九三二年(昭和七年)二月十一日生まれ。一九四五年八月十五日の敗戦まで「紀元節=建国祭」と呼ばれた日に生まれた次男坊だから、建二なんだと、以前、戦時中の話を聞きにおじゃました折に教えてくれた。今日が満八十八歳の誕生日だ。

 小樽の文房具店で修業した江口さんの父親が、現在地に文房具店を開店したのは一九二六年(大正十五年)。北海道随一といっていいほど豊富な品ぞろえの店には、北海道中の画家や書家、文化人たちが出入りした。店は、絵画や書をはじめとする文化活動の拠点であり、情報を交換したり、発信したりする場でもあった。
 その“店風”は父親から、江口さんの代になっても変わらなかった。画家や書家たちが江口日曜堂で買った材料を使って描きあげた作品を「こんなのが出来たよ」と置いていくことがしばしばあったという。江口さんの手元には、そうした作品がゴロゴロある。今では相当の値がつくと思われる作品も少なくない。「金を出して買ったモノは一つもありません」と江口さんは言う。「そんな大らかな時代だったんですよ」と。
 江口日曜堂の向かいにあるギャラリー喫茶ルルは、前のオーナーが三十四年、現在の吉川美智子さんが引き継いで十年、半世紀近く営業する喫茶店。江口さんは開店前、ルルで朝食をとるのが日課だ。吉川さんが「寒さが厳しい二月は展覧会を開いてもらうのが申し訳ないから」と江口さんに依頼して、初めての「江口日曜堂コレクション展」が実現した。

 会期はパートⅠとⅡに分けた。十五日までのパートⅠでは、高橋北修の「盛装のメノコ」、朝倉力雄の水彩の風景画、三好文夫の版画、板津邦夫が純生美術会第五十回記念で制作した陶板画といった旭川ゆかりの有名作家たちのほか、全国レベルの杉本建吉の作品も無造作に並ぶ。

 パートⅠの白眉は、一九二七年(昭和二年)に開かれた「カムシュペ画會」が主催する公募展「第一回洋画展覧會」の作品を募集するポスターだ。「期日 11月1日ヨリ5日迄 会場 旭ビルディング」とある。旭ビルディングは、落成間もない四階建てのビルだったという。このポスターは高橋北修が描いた。

 余談だが、旭川ゆかりの詩人の名を冠した現代詩の全国公募賞、小熊秀雄賞の運営に関わっているものだから、このポスターを見て、驚いたり、うれしかったり。つい先日、一月二十五日夜、市民実行委員会が主催して開いた「小熊秀雄を『しゃべり捲くれ』講座」の講師は、元NHK旭川放送局長の那須敦志さんだった。那須さんは、小熊が活躍した時代の写真などを映し出しながら話した。この旭ビルで開かれた展覧会に、小熊が生のサケの尾を使ったコラージュを出品して、そのサケを犬がかじったという記事が当時の旭川新聞に載ったのだそうだ。小熊は、旭川新聞の記者だった。そんな話を思い出しながら、江口さんと画家たちとの交流のエピソードに耳を傾けた。

 十七日から二十八日までのパートⅡでは、師団通り(現買物公園)の面影をたどる作品が並ぶ予定だ。作品の搬入搬出と展示は、ルルの常連たちが手を貸すのだそうだ。人のつながりが開かせた展覧会とも言える。

(工藤 稔)

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