三・六街に出かけるのにタクシーを呼んだ。座席前のポップに様々な割引が列挙されている。何気なく目をやると、その一つに「運転免許証返納割引」とある。「へえー、知らなかったよ」と運転手に声をかけると、今年二月から始めたと言う。「高齢者ドライバーの事故がニュースになるでしょう? 自主返納する人が増えているんですね。運賃が上がったこともあって、結構、利用者がいますよ」と。運転免許試験場に免許証を返納した際に、申請すると交付される「運転経歴証明書」(発行手数料千百円)を運賃を払うときに提示すると、一〇%割引になる。

 今年秋には六十九歳、来年は七十歳の大台だ。このところ、運転をしていてヒヤッとすることが少なからずある。先日も、助手席の友人の道案内で初めての住宅街を走り、幹線道に出たところで、“頭の中のナビ”が誤作動したのだろう、堂々と右車線を走行していた。隣の友人が落ち着いた口調で、「前から車が来てますけど」と注意をしてくれて、やっと気付いた。危なかった。一時停止の標識を見落としたり、赤信号の交差点に進入しそうになって急ブレーキを踏んだこともある。間違いなく、身体能力が劣化している。

 件のタクシーの運転手に「オレも、あと何年運転できるか…」と話しかけると、歳を聞かれた。「ハハハ、七十歳なんて。私はいま七十五。まだまだ仕事しなくちゃ、食べていけませんから」と笑われた。体力、気力、運動能力、記憶力、そして精神力や忍耐力…、すべからく個人差がある。一様に年齢で区切ることなどできはしない。八十歳を過ぎて、“あちらの方”も現役だと豪語する経営者を何人か知っている。とてもかなわない、と思う。

 安倍晋三首相は、「六十五歳を超えて働きたい。八割の方がそう願っている」と、いかにも多くの高齢者が喜んで働いているように語るが、ふざけるな。食えないから働かざるを得ない年寄りがほとんどなのだ。さて、第一線を退き、免許証を自主返納して、「運転経歴証明書」を手にタクシーに乗る日は、近いのか…。枕はここまで。

 前週の小欄、「リニアは本当に速いのか…」を読んだ読者から、メールが届いた。怒っている。そのサワリを。

 ――「リニア」の問題は、あなたが書いているように「残土」と「水枯れ」だけではありません。国土交通省は、トンネルを掘って出る膨大な量の土の処分先さえ決まらず、加えて、間違いなく発生して農業や生活用水、発電に壊滅的な打撃を与えるであろう、大井川の大規模な水枯れについても甘い見通しを示すだけのJR東海に対して、「認可」を与えているんです。予定される沿線の住民の多くが反対の声を上げているのに、それを一切無視して、工事に着手する。もう後戻りできない、という状況をつくる。沖縄・辺野古の新基地建設と全く同じ、強権的、民主主義とは真逆なやり方です。

 大井川をはじめとする水資源への影響などを議論する有識者会議が設置されたのは今年になってから。国を信用できない静岡県は、独自に専門家会議を設置している。その議論が行われている最中に、JR東海と国交省は「準備工事をさせろ」と要求する。静岡県知事が反発するのは、当然ですよ。

 国民のほとんどは知らないと思うんだけど、あのリニア中央新幹線に運転手は乗車しない。関東のどこかのコントロールルームから遠隔操縦する。運転士なしで、時速五百㌔で八割が地下トンネルというルートを突っ走る。もし、地震が起きたらどうなるの? 事故が起きたらどうするのって、考えません? 静岡県は地震の多発地帯です。東日本大震災とフクシマで目立たなかったけど、二〇一一年三月十五日に震度六の地震があった。幸い死者はでなかったようだけど、停電が発生して新幹線も止まったんだ。

(工藤 稔)

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