今号八面「事件ファイル」にある通り、北海道新聞の女性記者が旭川医大に侵入したとして逮捕された。二十五日付朝日新聞朝刊に「『無断録音した』道新に抗議文 記者逮捕で旭川医大」の見出しで続報が載った。引用しよう。

 ――旭川医科大学(北海道旭川市)の校舎内に許可なく入ったとして、北海道新聞社の記者(22)が建造物侵入容疑で逮捕された事件で、旭川医大は24日、記者が会議内容を無断で録音していたとして、同社に抗議文を送ったことを明らかにした。

 (中略)朝日新聞の取材に対する旭川医大の回答によると、職員が選考会議の会議室から廊下に出ようとしたところ、扉の隙間から会議内容を録音していた記者に出会った。職員が身分や目的を尋ねたが明確な返答がなく、逃げ去ろうとしたため、学外者が無許可で建物内に侵入したと判断し、警察へ連絡したとしている。

 また、旭川東署は24日午後に記者を釈放した。今後は在宅で捜査を続けるとしている。

 北海道新聞社法務広報グループは「現時点で事実関係が不明で、旭川医大の見解や記者の釈放についてはコメントできない。逮捕の経緯などを記者に確認し、読者には紙面で説明する」としている。(引用終わり)

 私が日刊旭川新聞社(九二年廃刊)の記者に採用されたのは三十六歳のときだった。ろくに記者教育などを受けた覚えはない。ただ当時、相談役として在籍した朝日新聞OBに、二週間ほど記者としての心構えやマナーなどの研修を受けた。今でも忘れられない言葉がある。「社の大小など気にする必要はない。記者の名刺を出せば、旭川医大の学長にだってアポなしで面会できる。それくらいの気概を持たなくちゃいかん」。

 もちろん、報道のための取材が目的ならば、どんな行為も許されるなどと主張するつもりなど毛頭ない。ただ、今回の事件が、現行犯逮捕して、警察に通報し、二泊三日も警察の留置所に拘留するほど悪質な犯罪だったのか、ということだ。

 小社のベテラン記者は、「取材を許されない会議が行われている部屋のドアの隙間に耳を当てて、何とか盗み聞こうとするのは当たり前だよ」と笑う。「取材される側だって目くじらを立てたりはしない。そんなことは、お互いに了解しているんだから」と。

 週刊文春に大々的に取り上げられるなど、一連の吉田学長についての報道で、旭川医大関係者が神経質になっているのは理解できる。そんな事情を考慮しても、ドアに耳を押し当てたり、録音しようとしている者を見つけたら、朝日の記事の「身分や目的を尋ねたが明確な返答がなく」が事実だったとしても、彼女が報道関係者だと推測できるはずだ。少なくても、盗みを目的に入り込んだ不届き者とは映るまい。ならば、「学内に入ってはダメだと伝えてあるでしょう」と説教をして、建物から退去させる程度の軽微なルール違反だったのではないのか。

 逮捕容疑の「建造物侵入」についても、いささか疑問が残る。当日の二十二日午後四時二分に、弊社に旭川医科大学からファクシミリが届いている。その要旨は。

(工藤 稔)

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