「ふるさと納税」という呼び名を聞けば、「生まれ故郷のために納める税金」というイメージが思い浮かぶ。それが素直なヒト、素朴な国民の普通の感覚であろう。私は、ずうっとそう思っていた。

 「故郷にノスタルジックな感情を覚えていたり、有難い気持ちを持っている殊勝な方が、故郷のために税金を納める制度なのだろう」と。
 ところが、どうも違うらしいということがだんだん分かってきた。例えば、次のようなニュースを目にすると、ことはノスタルジックでも、ありがたい気持ちでもなんでもないと分かる。六日付の毎日新聞の社会面の記事。

 ――二〇二二年に利尻町のふるさと納税の返礼品だった町産のウニに外国産を混ぜていたとして、道警は五日、厚岸町若竹一、水産加工会社元社長、上田敏樹容疑者(62)を食品表示法違反容疑で逮捕した。当時の経営者だった上田容疑者は容疑を認めているという。逮捕容疑は、厚岸町の水産加工会社「カネマス上田商店」を経営していた二二年一月下旬~二月下旬、利尻町から返礼品として受注した「利尻産蝦夷ばふんうに」十一パックを製造する際、ロシアやカナダなどの外国産のウニを混ぜているにもかかわらず、「利尻産」と表示し、産地を偽装したとしている。

 道警や町によると、二一年十二月~二二年一月に製造したウニは、ふるさと納税者から二千九百三十四件の申し込みがあった。そのすべてに外国産が混ざっていた可能性がある。カネマスは利尻町のほか、厚岸町にも工場があり、外国産が混ざったウニはすべて厚岸町の工場で製造され出荷されたとみられる。(中略)

 町の二一年度のふるさと納税額は約五億六千万円。うちカネマスのウニを返礼品として選んだ寄付は二億二千三百万円ほどで全体の約四〇%を占めていた。(引用終わり)

 調べてみると利尻町の一般会計予算は四十五億円ほどだ。町の全予算の一二%をふるさと納税が占め、その四割は返礼品のウニ、ということになる。ウニの力、恐るべし。全国から利尻産のウニの味を思い浮かべつつ寄付する人の熱い思いを想像すれば、底をついた利尻産の代わりにロシアやカナダ産を使いたくなる容疑者の気持ちも分からないではない。

 ふるさと納税は二〇〇八年、当時の菅義偉総務相が旗振り役となって始まった。自分で選んだ自治体に寄付することで所得税と住民税が一部控除される。加えて寄付した自治体から返礼品をもらえる。節税効果の期待や、返礼品を実質二千円で受け取れるとあって、制度開始以来、寄付は年々増えた。二〇二一年度の寄付の総額は約八千三百二億円。二二年度は一兆円を超えるのは間違いない。日本の年間防衛費が五兆円余りであることを考えれば、莫大な「寄付」額である。

 旭川市税務部税制課によれば、二〇二二年度途中の二月時点で、旭川市への寄付額は約二十一億七千万円。前年度は十九億二千六百万円だったから、すでに二億五千万円以上も増えている。旭川市は、他の自治体住民から受けた寄付額から、税収が減った分や経費を差し引いた収支は、二一年度は四億一千万円の黒字だった。

 申し訳ないがこの制度、どうも違和感がある。そもそも、住民税というものは、住んでいる町や村に税を納めることで、教育を受けたり、水道水を供給してもらったり、ゴミを集めに来ていただいたり、そうした住民サービスを受けられる、ということだろう。当然、住んでいる自治体に納税しても、返礼品などもらえない。ところがふるさと納税の制度を利用すると、何のかかわりもない町や村から豪華な返礼品が届くのだ。逆に実際に居住する自治体のサービスには“ただ乗り”状態。これって、おかしくないか?

(工藤 稔)

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