昨年末の選挙で、「TPP(環太平洋経済連携協定)への参加」を主張する民主党は、「聖域なき関税撤廃には反対」を掲げる自民党に大敗した。我が北海道もそうだが、TPPに対する対応の違いが、農業を基幹産業とする地域での自民党圧勝の一つの要因になったと考えていいだろう。
「おや、前に読んだような…」と感じられた方は、かなりの記憶力の持ち主です。一月十五日号の小欄の書き出しである。この時点で、うすうす勘付いてはいた。「聖域なき」のフレーズが味噌だということは、多くの国民、もちろん農業者やその関連団体の方々は、うすうすどころか、「聖域さえ設けられれば、賛成なのね」と知っていたはずなのだ。民主党の踏んだ轍を嫌というほど見せ付けられた選挙民は、政党の選挙公約などというものは、マニフェストと横文字で煙に巻いてみたところで、所詮は、お祭りの見世物小屋に入る前の興奮や期待が観てしまった後には「あーぁ、予想してたけどやっぱりか」と同じ感慨に陥るべく仕組まれているのだと、十二分に感知している。
だから、安倍晋三首相が、オバマ米国大統領との会談で、「聖域なき関税撤廃が前提ではないことが確認できた」としTPP交渉に参加する意向を表明したと報じられても、「あら、やっぱりね」くらいの反応なのだ。鉢巻をして、拳を突き上げたりして「断固反対」を叫んでいた農協の上部団体も、佐々木小次郎の燕返し(古すぎるな)のごとき目にも止まらぬ早業で、いきなり「例外品目」を指折り数える条件闘争に方針変換である。あーら、やっぱり予想通りの展開なのね、さ。
そして、これもみーんな知っている。オバマさんと安倍ちゃんが二人で「うちも例外品目つくるつもりだから、あんたのところもいいんじゃない?」なんて勝手にうなずき合ったところで、残りの十カ国が認めるかどうかなんて何の保証もないのよ。これで「聖域なき関税撤廃が前提ではないことが確認できた」などと、安倍首相自身が考えているとしたら、よほどのノーテンキだろう。つまり、手はず通りの確信犯。
(工藤 稔)
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