五回目の旭川大学の公立化検討に関する有識者懇談会(十七日)の議論を聞いた。所用があって途中で退席したのだが、委員の一人が、懇談会を設置した旭川市の立ち位置に対して、“いら立ち”のような発言をしたのに頷かざるを得なかった。旭川東高の前校長・山根治彦委員の発言の要旨をまとめると。

 ――具体的な大学づくりにまで話が進んでしまっている。この懇談会は、目指す大学像の議論に集約すべきではないか。もう一点、原点は魅力ある大学をつくるということ。その魅力とは、地域の人、高校生とその親にとって、魅力ある大学をいかにつくるか、それがこの会議の原点だ。

 そもそも論を繰り返すが、最初の段階で私は、「この会議は、旭川大学の公立化ありき、なんですか」と確認しました。(市側は)「そうではない」と答えた。今回五回目の会議になるのだが、旭川大学の公立化ありきで、会議が進んでいる気がする。市の財政的な事情もあって、新たな大学をつくるのは難しいという客観的な状況もあるし、旭川大学の公立化はいいと思う。ただ一市民として心配なのは、さっき言った、地域の人や高校生、その親にとって、魅力ある大学になり得るのか、率直に言って心配だ。

 「公立化やむなし」であるならば、学部の改変は大胆にやらなければ、新たに出来るであろう公立大学は、決して地域の期待に応える、あるいは地域の高校生に多くの選択肢を与える大学にはならないのではないか、心配だ。

 「ものづくり系学部」については、この場でいろんなお話をうかがって、私自身もイメージができていますし、素晴らしい学部ですから、公立大学の中に組み入れるべきだ。ただ、ものづくり大学で終わってしまってはだめ。高校生のいろんな選択肢に応えるのが、公立大学の役割だと思う。学部の改変については、旭川大学に、相当大胆な、身を切る改革を求めなければならない。

 議論を仕切る総合政策部の黒蕨真一・総合政策部長は「まだ、公立大学をつくるという判断に至っていない。皆さんに議論をしていただき、判断していきたい」と、その発言を引き取った。

 山根委員は、今春まで旭川東高の校長だった。ありていに言ってしまえば、この地域の、学力ではトップクラスの高校生たちの、選択肢の一つになり得る大学を絶対につくる、と旭川市は腹をくくった上で、この会議を主宰しているのか、ということだろう。

 二年前に亡くなった長原實さん(カンディハウス創業者)が、東海大学旭川キャンパスの閉鎖に強い危機感を抱き、企業経営者らに呼び掛けて、公立「ものづくり大学」の開設を求める運動を始めたのは二〇一一年夏。もちろん、東海大に代わる「ものづくり系」の大学が地域に不可欠だ、という理由だったのだが、もう一つ、地元の子どもたちが、能力がありながら経済的な理由で大学に進めない状況を何とかしたい、という強い思いがあったのだ。

 長原さんご自身は中学を出てすぐに建具屋に丁稚奉公に入っている。その並外れた向学心と知的能力と精神力と諸々の事柄があって、旭川と近郊は世界に冠たる家具・クラフトの名産地になった。人を育てることに力を惜しまなかった長原さんが、経済的理由で進学をあきらめる子どもを一人でもなくさなければ、と常々語っていたのを忘れない。長原さんの口癖は「教授陣も学生も、世界から集まる大学が必ずできる」だった。

(工藤 稔)

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