前号で、三浦綾子記念文学館・分館で開かれた旭川デンマーク協会(会長・大矢二郎東海大学名誉教授)の研修旅行の報告会を“まくら”に使わせていただきながら、現市庁舎の「赤レンガのDNA」について書いた。そのサワリ。


 ――六十一年前、人口十八万人のまちが、ぎりぎりの予算で新しい庁舎を建設した。当時の市民は、日本建築学会賞を受賞したこの庁舎をどれほど誇りに思ったことだろう。だからその後、この赤レンガの意匠は小中学校の校舎や様々な公共施設、ホテルOMO7、果てはJR旭川駅前広場にも、脈々と受け継がれることになる。

 新庁舎の建設計画がほぼ一年、先送りされる。時間はたっぷりある。現庁舎を「シビックセンター」として位置付ける構想をもう一度考えてほしい。何度も言うが、市民とともに六十五年の時を刻んだ名建築を、むざむざとゴミにして捨ててしまうなんて、旭川市民の一人として許せないんですよ。

 報告会に参加していた女性からメールが届いた。「直言読みました」とのタイトル。以下。

 ――今日の直言、私も同じ気持ちです。

 折しも、先日ふと思いついて『氷点』のDVDを借りてきました。
 なんと、エンディングの雪景色に赤レンガ市庁舎が美しくそびえているではありませんか。市庁舎竣工が1958年で『氷点』の公開が1966年ですから、完成して8年の姿です。

 市民が誇らしく眺め、足を運び、徐々に愛されはじめたこの建物が、旭川の象徴としてエンディングにふさわしいと監督が考えたに違いありません。

 そんな、旭川市民が誇る(べき)赤レンガ市庁舎を、ガシャガシャと重機で壊してゴミ捨て場に捨てるというのでしょうか?

 私もまだあきらめきれない一人です。

 私からの返信。

 ――歴史の浅い北海道の、旭川という町で、60年を超える時を刻んだ歴史的な建物を、大した市民論議もなく、アリバイづくりみたいな委員会と、だましみたいな市民アンケートの結果から、むざむざ壊してしまう、その感覚が全く分かりません。その後に建てられるのが、特徴も、デザイン性も、物語もない、なんの変哲もないオフィスビルです。

 やっぱり「シビックセンター」として、改修・活用するのが一番ですよね。田根さん(剛・一九七九年生まれ、東海大旭川キャンパス出身の建築家。パリを拠点に世界で活躍中・工藤注)にお願いして、何とか安価でデザインしてもらう手だってあると思うなあ。全国から、視察が押し寄せると思う。本物の「物語」があるんだから。ここまで来たら、「市長の決断が、歴史的市庁舎の命を救った」という感動的な新・物語が生まれるじゃない。

 そして、彼女からの返信。

 ――まったく同感です! 田根さんも以前言っていました。「むしろ今、解体を取りやめる、と発表した方が旭川は注目を集めると思う」と。

(工藤 稔)

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