七月の上旬、庭の小さな畑の上を赤トンボがたくさん飛んだ。トマトやナスの支柱に止まって羽を休める姿もずいぶん見た。「今年は、珍しくトンボが多いね」と家人と話したものだ。ところが七月下旬になると、あんなにいたトンボがパタッと姿を消した。それは、米農家が害虫防除を目的に水田に農薬を撒き始める時期と重なる。


 斑点米の原因となるカメムシ類の防除に使われるネオニコチノイド系農薬は、昆虫の脳や中枢神経内にある神経伝達物質の正常な働きを妨害し、異常興奮を引き起こして死に至らしめる「神経毒」だ。世界中で使用され、日本でもコメだけでなく野菜や果物の栽培に広く使われている。

 元日本経済新聞記者でジャーナリストの猪瀬聖さんのブログの要旨を紹介しよう。

 ――最近の研究でカメムシ類などの害虫以外の、トンボやカゲロウなどの昆虫や、野鳥や魚、哺乳類の繁殖に重大な影響をもたらす可能性があることが分かってきた。さらに、発達障害児の急増との関連、母親の胎内での胎児の成長との関連など、食べ物を通じた人への深刻な影響の可能性を示す研究結果も、日本の研究者らによって次々と報告されている。

 ――欧州連合(EU)は二〇一三年ごろから徐々に規制を強化し、一八年には、日本でも使用が認められている主要ネオニコチノイド系農薬のうち、クロチアニジンなど三種類の屋外での使用を禁止。フランスは独自に一八年、ネオニコチノイド系農薬の使用を全面禁止にした。

 ――米国も一五年、環境保護庁(EPA)が四種類のネオニコチノイド系農薬について、新たな農作物への使用や空中散布など新たな使用法を認めない方針を決めた。

 ――隣国・韓国は、EUが三種類のネオニコチノイド系農薬の屋外での使用禁止を決めた直後、同様の措置を決定。

 ――こうした世界の動きに対し、日本政府は逆に「規制緩和」を進めてきた。例えば、スーパーなどで売られている農産物は農薬の残留量の上限(残留基準値)がそれぞれ決まっているが、日本政府は一五年、クロチアニジンの残留基準値をホウレンソウは従来の十三倍強の四〇ppm、シュンギクは同五十倍の一〇ppmに引き上げるなど、段階的に緩和している。(引用終わり)

 コメを作っている農家の友人に話を聞いた。彼は、最近はミツバチなどへの影響を考えて農薬そのものが弱くなっているし、使う量も減らして来ていると説明しながら、こんな話をした。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。